中将の仲介により、帝と姫君の文のやり取りが始まった。

景色の移り変わりや、日々の出来事など、たわいもないことを綴りあう。

流麗な筆運びの姫からの返事は、あの出会いと重なりあって、帝の内では、(まつりごと)の重圧を忘れさせてくれる何ものにも代え難い心安らぐ物になっていた。

そんなある日、帝は、幼少の頃の思い出などを、したためた文を姫へ送った。

そして届いた返事には、姫の秘密とも言える、不思議な生い立ちから始まり、本来の身分について、書かれてあった。

本当は、この国の者ではなく、月の国からやって来たのだと──。

にわかには、信じられない話であったが、更に、帝は、驚いた。

もう、この国には、おられない。あちらへ、戻らなければならないようだ──。

「そのようなことが……」

帝は、呟かれる。

この国の外には、様々な異国(くに)が在ることを、帝も知っていたが、月にも国が在るとは、初めて聞いた。

信じられないと、学問を司る大学寮から博士(がくしゃ)を呼び、月について教授を受けたのだが、どの博士も、月は月であるとしか述べない。

どうも、腑に落ちないと思う帝の元へ、無礼を詫びながら、中将が、駆け込んで来た。

姫からの文は、届いたばかり。帝は、まだ、その返事を送っていない。

どうしたかと、中将を問い詰める前に、切羽詰まった返答が帝へ向けられた。

「翁が、我が屋敷へ参りました。姫君が、月へ戻ってしまうと、言うのです」

ああ……、と、帝は、納得する。

やはり、月にも国がある。姫の美しさは、月の国からやって来たから。だから、光輝いているのだ。

それにしても。

姫も、そして、翁も、同じことを言っている。

──月へ戻ると。

それは、いったい──。