──昔男ありけり。

その名を、在原業平(ありわらのなりひら)と言う。

父は、皇子である阿保親王。母は、桓武天皇の皇女、伊登内親王。れっきとした皇族の子息だった。

しかし、この世は朝露のように、はかなく移り変わるもの。

政変が重なり、その身分は、はく奪され、在原朝臣(ありわらのあそん)の名を与えられことになる。

つまり、皇族から、臣下──、ただの貴族へと没落したのだ。

そんな不運な業平だったが、突如として、和歌の才能を開花させる。

業平の詠む歌の、なんと華麗なことよ──と、都中が、彼の和歌に夢中になった。

そして。

自らが詠んだ歌のように、業平は、禁断の恋へ向かうのだった……。