あの日から一週間。
カナとの関係は良い傾向にあり、いつもの日常が戻ってきた。そんな中で、私は、ようやくちゃんと桜と向き合う決意をしていた。
「こんにちは」
「仄花ちゃん、こんにちは」
灯輝さんの絵は、段々と完成に近づいている。「ツツジ」と名乗るようにそのままを描いた、深い絵だ。
そういえば、灯輝さんって。
「…灯輝さん、植物の絵沢山描いてますけど、結局どれが一番好きなんですか?」
灯輝さんは、沢山の植物を描いている。四季や旬、流行にとらわれず、灯輝さんがその植物の中で一番「植物らしい」と思う姿を描いているだけで、一定の植物を書き続けているわけではない。
この前スケッチブックを見させてもらった時は、パラパラという音と共に色々な草花がその紙を駆け巡っていた。これは満開のマリーゴールド、これは枯れ始めたようなシロツメクサ。それぞれに意味があるのだろう。
「え?そんなぁ、無理無理 !一つなんて決められない。全部好きだよ」
「そうかぁ…」
個人的に気になったんですけどね、と言うと、灯輝さんの表情が曇る。まただ。ここ最近、ふっと表情が暗くなっている。自分が何かまずいことを言ったか、そう感じてしまうほどだ。
「…高校生の時は、本当に一つの物が好きだった」
なんで今は好きじゃないんですか。それを言うのは、もう少し先だと思った。
「聞きたい?俺の苦い思い出」
「気になりますけど…。無理はしないでください」
「そこはまあ、もうほとんど大人なんで」
すると、灯輝さんは喋り出した。
「俺、高校生の時美術部入ってたんだよね。本当に、趣味程度で。それで、学校に結構すごい桜の木があって、俺一年間ずっとその桜の成長を描いてたの。日記みたいな感覚で、気楽にね。でも、もちろん適当にやってなんかないよ?絵を描くことは好きだし、ちゃんとそのまま描きたかったから」
私は、小さくアイスティーを揺らす。なんだか、嫌な予感がしたからだ。
「でも俺正直、美術部が本気で、本当に真面目にコンクール目指すのとかって、中学の話だと思ってたんだ。だからって高校ががんばってないとかそういうことじゃないんだけど、特にその年の部長がちょっと、厳しめでね。夏の終わりくらいか、一回部長に話しかけられて、絵を見せたの。そしたら、思うがままに叩かれまくった」
それは言葉ですよね。もちろん、手だったらやばいよ。そのやりとりでさえ、言葉の重みを感じる。