顔の火照りが治まってくれない。

 私の記憶が確かなら、私はクラレッドから『好き』という言葉をもらった。


(どこを好きになってくれたんだろう……)


 私の記憶が確かなら、私のことが大切だとも言ってくれた。


(元聖女だから、優秀な遺伝子が欲しいとか……顔? そんなに私、可愛い顔をしてたかな……?)


 本当の記憶か偽物の記憶かよく分からない記憶に対して、ここまで動揺してしまうなんて子どもっぽすぎて恥ずかしい。

 クラレッドみたいな大人の男性からすれば、私の行動はとても子ども染みているに違いない……。


「しっかりしろ、私!」


 自分の頬をパチンと叩いて気合いを入れ直してみる。

 いつまでもさっきの言葉に照れていたら、これからやってくる彼に会わせる顔がない。


「もう、大丈夫……」

「何が大丈夫?」

「え?」


 人間そう簡単に、気配を感じさせることなく人に近づくことができるわけがない。

 それなのに私の相方は、いとも簡単にやり遂げてしまうのだから腹立たしい。


「あ、えーと……町医者は、どれくらい儲かるのかなーと」

「やってみないと分からないけど、2人が食べていく分には困らないんじゃない?」


 さらりと2人が食べていく分には困らないと彼は言うけれど、それはまるで2人の未来含めた発言にも聞こえてしまって恥ずかしい。


「こほん、こほん」


 真新しい白衣に身を包みながら、声の調子を整えていく。

 私ばかりがクラレッドのことが気になり始めているとか、そういう物語の始まり的なものは求めたくない。


「……当診療所の売上目標は、国家予算超えです」

「……は?」


 だって、ここから恋の物語が始まってしまったら、私はまた医術師という立場から退くという展開を迎えるかもしれない。

 そして、クラレッドから婚約破棄され……って、クラレッドとはまだそういう関係じゃない!


「ディアナって、実は馬鹿……」

「お金持ちになって、ざまぁみろと言ってやるのが当面の目標となります」


 妄想がはかどっていることを隠しながら、私は秘めた野望を従業員に向けて説明していく。


「……国の王子に向かって?」

「もちろん」

「…………」

「私との婚約を破棄したこと、絶対に後悔させてみせるの!」


 まだ着こなせていない白衣が不格好な気もしなくないけれど、これが気慣れる頃には人の役に立つ私になれていたらいいなと想いを込める。