「ロメウド様だけじゃなくて……」

「ん?」

「初めて会うクラレッドにも迷惑かけちゃって……本当にごめんなさ……」


 クラレッドが換気のために開けてくれていた窓から、春を思い起こすような爽やかで優しい風が一瞬部屋の中を吹き抜けていった。


「え……」

「自然も怒ってるんだと思うよ」


 自身の髪とクラレッドの髪が揺れた。

 吹き込んできた風は、私の後ろ向きの感情を吹き飛ばすために現れたのかもしれない。


「ディアナが、自分の頑張りを認めてあげないから」


 新しい人生を始めるときが来たってことを、部屋に運ばれてきた風が私に教えてくれた。

 そんな錯覚を起こす風の優しさに、私の心は動揺する。

 終わりを迎えて、こんなにも早く次の始まりが訪れるなんてあり得ない。

 これは物語の世界の出来事ではないはずなのに、胸が急に苦しくなる。


「クラレッドが優しいから、凄く癒された……」

「ゆっくり休んで、早く元気になろう」

「ふふっ……ゆっくりなの? 早くなの? どっち?」

「そうそう、笑うってスッゴク大切なことだから」


 いつまでも、迷惑かけっぱなしのままではいられない。

 だって、私と一緒にいてくれる人には、安心とか穏やかな気持ちとか、温かい心でいてほしいと思っているから。


「俺はね、ディアナのことを迷惑って思ったことはないよ」

「でも、私は今、クラレッドに心配かけて……」

「心配をかけることは、いけないこと?」


 クラレッドは私の頭を優しい手つきで撫でてくれる。

 クラレッドの手から伝わる温もりに気づいたとき、私は鮮明な視界でクラレッドのことを受け入れる。


「好きな子だから、心配するんだよ?」


 クラレッドの表情は、私が好きだと感じる優しいものへと戻っていた。

 人を包み込むような、心がポカポカしてくるような、クラレッドから感じられる優しさに泣きそうになる。


「好きな人が悲しそうな顔とか、苦しそうな顔をしていたら、心配になるのは当然」


 私がクラレッドの瞳に見惚れそうになったとき、クラレッドから『好きな子』という言葉が発せられた。

 それと同時に、自分の頬が赤く染まっていくのが自分でも分かる。