「さ、好きなだけ食べてくれ」

「いただきます……」

「まあ、その細身な体じゃ、あんまり食べないんだろうけど」

「……食べます。もりもり食べます……」


　調査が終わるまで全財産凍結された私に、クラレッドは都会で話題のお菓子をご馳走してくれた。


「ついさっきまで高級な食べ物ばっか口にしてたら、味覚が庶民に馴染まな……」

「私は元々、庶民出身です……」


　普通なら、それをありがたいことと捉えるべきだと思う。

　けど、世界を滅ぼすほどの力を持つ魔女と称されたところだけは、どうしても引っかかった。

　それが事実だとしたら、私はクラレッドを元いた平和な世界に帰さなければいけない。

　クラレッドの優しさに甘えていたら、いつまでもクラレッドとの関係を続けようとしてしまう。


「そっか」


　何が『そっか』なのかと思って、顔を上げるとクラレッドは嬉しそうな表情を浮かべて私のことを見守ってくれていた。


「味覚が同じなのは嬉しいな」

「味覚？」

「俺のおすすめを幸せそうに食べてくれてるから」


　クラレッドが見せてくれた笑顔が、あまりにも幸せそうに見えた。

　照れなくてもいい側の私の方が照れてしまって、私は目の前の果物があしらわれたお菓子に集中しているフリをした。


「あの……魔女の話……」


　いつまでも甘いお菓子を口にしてばかりはいられない。

　本題に入らなければいけないと思った私はティーカップに注がれた紅茶を口にして、クラレッドの話を受け入れる覚悟を決める。


「はい、新聞」

「……ありがとうございます？」

「聖女様って、新聞読む暇もないくらい忙しいって聞いてる」

「……今朝は読んでいないだけです」


　聖女追放だけでなく、婚約破棄まで同時に行われるという騒がしすぎる出来事の後。

　ゆっくり新聞を読む暇があるくらい心が広い女性だったら、もしかするとなんらかのかたちで城に置いてもらえたかもしれない。

　
「治癒魔法が滅びたとき、医療分野は栄えていく……」


　クラレッドから差し出された新聞には、ごくごく当たり前のことが大きな見出しとして取り上げられていた。


「こんなの今更、驚くようなことでも……」

「でも、新聞の記事になるってことは、いつか医療業界から治癒魔法を非難する日が来るかもしれないってこと」


　自分たちの、人の手で患者を治療したいという人たちがいる。

　一方で、世界を探せば私のような治癒魔法を神様から授かる人もいる。

　わざわざ人の手で治療を施す必要はどこにもなく、みんながみんな治癒魔法を頼ってくれたら何も問題は起きない。

　それでも魔法医学業界と、医療業界の人たちは今日も世界のどこかで言い争っているらしい。