「ディアナ、傷ついた仲間の手当てを頼む」

「かしこまりました……」


 私が神様から授けられた魔法は、病気や怪我を治癒すること。

 治癒魔法の存在は医療分野の発展を阻害してきたと揶揄されることもあるけれど、実際に治癒魔法を越える医療技術は未だに誕生する気配すら見せない。 


「……はぁ、はぁ……」

「…………」


 治癒魔法の中でも最大の力……もうすぐ命が付きそうな人の命すらも救うことができた私の噂は世界中を駆け巡り、すぐに聖女として国の重要な地位へと招かれた。


「ディアナ」

「ロメウド様、私なら大丈夫ですよ」


 そして私は、次期国王候補の王子ロメウド様と婚約をした。

 王子と共に、多くの国民から愛される聖女として今日まで生きてきた。

 
「…………」

「ほら、今日も元気いっぱいです」


 けれど、現在の聖女は体が弱かった。

 人1人を治癒するために莫大な体力と精神力を浪費し、治癒魔法とは関係なく体調を崩すことが多い。


「次の方は……」


 どんなに凄い治癒能力を持っていても、私は世界にただ1人の存在というわけではない。

 聖女という役職に招かれたことが特別感を与えているだけで、私を越える治癒能力を持つ人材は世界のどこかを探せば必ず見つかる。


「ディアナ・コートニー」

「ロメウドさ……ま……」

「初めまして、ディアナ様」


 そして、とうとう私の代わりが見つかった。


「ディアナ様の代わりに聖女を務めることになりました、ポリー・ドライアナと申します」


 いつかは私よりも健康的な方が現れて、いつかは追放される日が来ると覚悟はしていた。

 けれど、別れは想像していたよりも早く訪れた。


「私はディアナ様とは違って、健康な子を産むことができます」


 私は体が弱いだけでなく、子を産むための体力もないと診断されていた。

 私は聖女としてだけでなく、次期国王になるクラレッド・アーノア様の婚約者としても扱われてきたけれど、世継ぎを産むことのできない聖女には用がないということ。


「ディアナ」

「ロメウド様……」

「今このときをもって、君との婚約を破棄させてもらう」


 ロメウド様との婚約を破棄されたということは、同時に聖女という立場からも追放されるということ。

 
「ほら、これがおまえの荷物だ」


 つい数分前まではディアナ様と呼んでくれた人たちの態度が急変して、私はクラレッド様たちの拠点である城を追い出された。

 そして、銀行口座も一旦凍結された。

 不審なお金が動いていないか調べるとかなんとか。

 聖女と呼ばれてはいたけれど、結局国からの信頼は得られていなかったんじゃないかと疑ってしまう。