(私……大切にされてる……?)


 自分が大切な存在として扱われたのなんて、祖父母が生きていた頃以来だった。

 あまりの懐かしさに再び涙腺が緩み始めるけれど、ここで泣いていたら逃げられるものも逃げられなくなってしまう。


(理不尽に殺される人生も嫌だけど、足手まといになる人生も耐えられない!)


 私の中で、確固たる決意が生まれる。

 すると、山小屋の出入り口や窓。煙突。

 外と中を繋ぐすべてが勢いよく開いて、私はいよいよ誘拐犯から解放される……はずだった……。


「ぐわぁぁぁぁ」

「キュィィィ」

「ガルルルル……」


 私を助けに来たのは、森で暮らしている動物たち。

 魔物とか、そういう類の生き物もいるかもしれないけど、今は動物でも魔物でもなんでもいい。

 私は長い間、森で一緒に暮らしてきた仲間たちに救出されるという流れを迎えた。


(私の危険を察知して……?)


 言葉を交わし合うことはできないけど、森に暮らす生物たちに親切にしていて良かった。心の底から、そう思った。


(って……そんなわけあるか!)


 森の仲間たちは、何やら不思議な紋章と共に魔法と思われる術を放ち始めた。

 光やら炎やら水やら……以下略。

 何もないところから、そういった自然現象を発生させるには魔法の力を借りるしかない。


(結局、私を助けに来たのはシルヴィンってことかー……)


 目の前では、森の仲間たちと黒装束軍団の大乱闘が繰り広げられていた。

 滑稽とも言える光景が広がっているけれど、前世では経験しなかった救出という初めての展開はやっぱり私の涙を誘ってくる。


(今回の人生では、私を助けてくれる人がいた……)


 この誘拐劇はシルヴィンが仕組んだものかもしれない。

 シルヴィンは本気で私のことを殺そうとしていたかもしれない。

 でも、最終的に私の未来は変わった。

 婚約を破棄したにも関わらず、自分の命を絶たれるという流れは阻止された。