(そもそも、スフレイン家は身代金を払ってくれるのかな……)


 今まで生きた人生では、婚約破棄されてからの処刑がいつもの流れ。

 今回は婚約破棄されていないけど、このままでは男共に殺されて人生を終え……。


(って、待った! 待った!)


 今回は、私がシルヴィンとの婚約を破棄したようなものだと今更気づく。

 私がシルヴィンとの婚約を受け入れていれば、こんな誘拐騒動に巻き込まれることはなかった。


(ってことは……私は、このまま……)


 私の人生は、ここで終わる。

 森で迷子になったとき用に造っておいた山小屋で、またいつもの定番の展開を迎える。

 いつも通り、言葉で表現するのも恐ろしい残酷な殺され方をされてしまう。


(それが、いつもの私……いつもの人生……)


 結局人間は頑張ったところで、定められた運命から逃れることはできないということ。

 今回の人生も、私は婚約破棄から殺害という流れに逆らうことはできなかった。


(次の人生も記憶を引き継ぐことができたら、今度はおとなしく婚約を受け入れよう……)


 婚約破棄のあとに殺されるという流れに慣れ過ぎたせいか、涙も流れてこなくなってしまった。

 そんな心の冷たい人間、何度転生を繰り返したところで幸せになれるわけがない……。


「おいっ!」


 仲間と人質の私に何かを知らせるために、1人の男が大きな声を上げた。


(きっと、シルヴィンが助けに来てくれたんだ……)


 男たちがうろたえてしまうのも無理はない。

 私たちが生きる現世では、魔法を使うことのできる人の数が圧倒的に少ない。

 シルヴィンが使用する魔法に(おのの)いて、自分たちの計画が大きく狂ってしまったことを嘆いているに違いない。


「そうだ! こういうときの人質だ!」


 私が人質になったところで、シルヴィンは戦力を削ぐようなことをするのか。

 私は、シルヴィンにとっての大切な人でもなんでもない。

 私はただ、シルヴィンが求める魔法図書館の相続人でしかない。


(私が死んだ方が……シルヴィンは魔法図書館を手に入れやすい……)


 心細くなると、思考まで暗くなってしまう。

 それも、いつも通りの人生。

 予定通りに進んでいく人生に慣れてしまったけれど、その人生に慣れてしまった自分が存在するのも凄く悔しい。


「命が惜しかったら、奴らを説得しろ!」


 今にも溢れてきそうな涙が、一気に引っ込んだ。

 奴ら?

 シルヴィンは1人で乗り込んできたんじゃなくて、複数で私を救出しに来たことになる。