「傷の手当てが終わりましたので」


 すると、私の訴えは棄却された。

 それは当たり前の流れ。

 だって、シルヴィンは私が似たり寄ったりな人生を繰り返していることを知らないから。


「お夕飯にしましょう」

「それは……」

「たまには贅沢をしてみようかなと」

「お肉!」


 私は日本人に転生したときに学んだ『すき焼き』をシルヴィンに振る舞った。


「美味しい!」

「この世界では、私しか知らない秘伝のレシピをシルヴィンには公開しちゃう!」


 女性の涙を肉で解決しようとするシルヴィンをどうかとも思うけれど、それが現世の婚約者らしいなーって気もして思わず笑った。


「田畑の具合や、魔法図書館……は住まいではないとしても、きちんと管理をされていて……」


 誘拐された直後に、お肉を頬張ることができる私も令嬢らしくなくて笑ってしまう。

 もう少し愛される系の令嬢を演じていく予定だったけれど、その予定は白紙へと戻った。


「ローレリアが、ずっと独りで頑張ってきたことを知りました」


 生きていくために、仕方がない。

 そんなことを言ってしまったら、元も子もない。

 でも、令嬢に転生した時点で、私は婚約破棄からの処刑という流れを覚悟した。


「ローレリアは、なんでも完璧にこなしてしまうんですね」


 覚悟をしたからこそ、いつ婚約破棄されてもいいように。

 いつ処刑という判断が下って、国外に逃亡することができるように今日の今日まで鍛えてきた……つもりだった。


「でも、私は戦う力を持っていません」

「……すみませんでした」


 誘拐犯を企てた主犯が、本当にシルヴィンなのかどうかを確かめる術はない。

 けれど、事のからくりはこうだった。

 独りで生き抜く力を養ってきた私に、やすやす手を差し伸べていいのかシルヴィンは悩んだ。

 その結果、シルヴィンは私を直接救出することをせず、間接的に森の仲間たちを頼った。

 それが、駆けつけるのが遅くなった理由。

 
「……お肉を持参してきてくれたから、許します」

「……ありがとうございます」


 楽しい食事の時間を過ごせばいいものの、私の婚約者様は随分と律儀な性格だと思った。