「シルヴィンが助けてくれたんだよね?」

「ほんの少しだけ力を貸しただけですよ」

「ほんの少し?」


 どこからどこまでが、本当の話なのか。

 それを確かめられるほど口達者で話を盛り上げられるわけもなく、巧みな話術で欲しい情報を引き出せるほど賢くもない。


「ローレリアの危険を察知したのは僕ではなく、森で暮らす生き物たちです」

「…………そっか」

「素敵なお友達ですね」

「友達……うん、そうだね」


 私にできることは、彼の話を信じること。

 そして、明日の朝になったら無事に目を覚ますこと。

 森の仲間……友達に、お礼の木の実をいっぱい持っていかなければいけない。

 畑の農作物にも、たくさんの水を与えてあげなければいけない。

 
「立派な田畑が広がっていて、驚きました」

「でしょ? お米作りはね、今年初めて挑戦するの」


 明日以降もやることが山積みで、これからの人生もとても忙しくなりそうな気がする。


「今年初めて育てる野菜も果物もいっぱいあって……」


 明日を、生きていくことが許された。


「来年育てたい野菜と果物も……」

「賑やかになりそうですね」

「うん……」


 明後日も、し明後日も、祖父母が残してくれた土地で暮らしていくことを、やっと神様に許してもらえた。


「ローレリ……」

「うぅ……」

「……怖かったですよね」

「うん……うん……」


 シルヴィンには、絶対に見せたくないと思っていた涙が零れ始める。

 止められなくなった涙を拭おうとすると、その涙を拭ったのは私じゃない。

 優しさという感情が込められたシルヴィンの指が、私の涙を拭ってくれた。


「私……殺されるかと思って……」


 何度も何度も繰り返される。

 私はいつも、与えられた人生の寿命を全うすることができない。

 いつも婚約破棄されて、いつも処刑されて……。


「殺されるって、怖いんだよ!? 本当に怖いんだよ!? 何回殺されても、慣れとか生まれてくるわけがないから!?」


 心の叫びをシルヴィンに訴えたところで、私の気持ちも私が経験してきた人生も伝わるはずがない。

 それでも私は、自分の中に宿ってしまった恐怖心を消し去るために訴える。