「お帰りなさい」

「ただいま……」


 私を誘拐した男たちが、どんな結末を辿ったのかは分からない。

 私は森の仲間たちに護衛されるかたちで、にこやかな笑みを浮かべる婚約者の元へと帰ってきた。


「怪我は?」

「擦り傷を少々……」

「頼ってくれて、ありがとうございます」


 前世や、前々前世や、その前の人生は、凄く美しくて高級なドレスをたくさん着させてもらった。

 でも、今の私は汚れた衣服に身を包まれた、みすぼらしい姿。


「ローレリアのことですから、傷すらも隠してしまうのかなと思っていたので」


 こんな、令嬢とは縁遠い外見をしている私を婚約者様は笑顔で迎えてくれるとか……。

 シルヴィンは、よっぽど私が相続した魔法図書館という財産が欲しいらしい。


「おかげで、魔法使いの力を押しつけることができます」


 魔法使いの力を押しつけるという乱暴な言葉遣いをしている割に、私に触れてくる手は温かくて優しい。

 でも、シルヴィンが私のことを様付けしなかったところだけは見逃せなかった。


(シルヴィンも本性を見せてきたってことかもしれない……)


 欲しい物を手に入れるためなら、猫を被ってはいられない。

 そんな発想に至るものの、シルヴィンは壊れ物を扱うような繊細な手つきで私の身体に触れてくる。


(どんなに優しくされても、騙されないんだから……)


 この誘拐劇は、あなた(シルヴィン)が仕組んだものだったんでしょ?

 尋ねたい。

 本音を言うなら、尋ねたい。

 でも、私はシルヴィンに命を救ってもらった。

 私は死と直面したあとに、初めて明日という未来に足を踏み入れることを許された。


「魔法って、なんでもできるんだね」

「家事は一切できないですけど、魔法で衣服の汚れを落とす程度なら……」

「それも、お願いします」

「……はい、かしこまりました」


 前世も、前々前世も、いつの時代を生きても、私は最終的に無実の罪を着せられた上で殺されてきた。

 自分の命が救われる瞬間に初めて立ち合うことができて、初めて明日以降の予定を立てることができて、なんだか心のどこかがくすぐったい気もする。