「勇者に復讐とか、物騒なことを呟いていたから声をかけさせてもらった」
久しぶりに開催される勇者・聖女オーディション。
数えきれないほどの人々が集う大きな広場で、わざわざ小声で呟いていた私の言葉を拾い上げる人物が現れるわけがない。
そんな高を括っていた私の元に天罰は下された。
「すみません!」
「いや、まだ俺は勇者じゃない……」
「通報しないでください……」
「別に妄想するくらい自由だろ」
勇者・聖女オーディションが行われる会場で不審者扱いされ、この場からつまみ出されて私の復讐計画は台無しになる。
そんな妄想を打ち消すように、声をかけてきた男性は優しい言葉で存分な甘えを私に与えてくれる。
「……お兄さん、とても綺麗な顔立ちですね」
「お兄さんはやめろ。どうせ、たいして年齢は変わらないだろ」
「顔に関しては否定しないんですね」
「女に声をかけられる回数が多い自覚はあるからな」
「ふふっ、面白いです。お兄さん」
世を生きる女性の平均身長を下回る私は、声をかけてきた男性の身長の高さに驚かされる。
けれど、男性は私に親しみやすい空気を与えながら話を弾ませてくれる。
おかげで驚くくらいの身長差も、私が抱えている勇者復讐計画が聞かれてしまったことも気にならなくなってくるから不思議だった。
「ローレッド・ドフリー」
「あ、お名前ですね!」
お兄さんと呼ばれることに耐えかねたのか、素敵な容姿と声を持つ男性は名乗らなくても支障のなさそうなのに、私に貴重な名を教えてくれた。
「私はフェミリア・ウィネットと申します……が、リアという略称で呼ばれることが多いかと……」
「ん、まあ、適当に呼びやすい方で呼ぶ」
「よろしくお願いいたします」
名前を知るのは、特別なこと。
名前を呼ぶことができるのは、もっと特別なこと。
まだ出会って数分しか経っていないのに、ローレッド様は私にとっての特別を与えてくれた。
「ローレッド様、注目されていますね」
「まあ、モブみたいな顔の勇者候補が多いからだろ」
暇を持て余している人たちは、勇者・聖女候補の顔面チェックに勤しんでいた。
1番目立つ美しい容姿をしているローレッド様が見つかってしまうのに、時間はほとんどかからなかったかもしれない。
「ローレッド様は自信家ですね」
「自信がなきゃ、勇者オーディションなんて受けに来ない」
「確かに……」
ローレッド様の話し相手になっている自分は、まるで特別な存在に扱われているような気分になってくる。
それだけ多くの人たちにローレッド様が注目されているのが分かって、顔に籠るはずのなかった熱のようなものを感じ始める。
久しぶりに開催される勇者・聖女オーディション。
数えきれないほどの人々が集う大きな広場で、わざわざ小声で呟いていた私の言葉を拾い上げる人物が現れるわけがない。
そんな高を括っていた私の元に天罰は下された。
「すみません!」
「いや、まだ俺は勇者じゃない……」
「通報しないでください……」
「別に妄想するくらい自由だろ」
勇者・聖女オーディションが行われる会場で不審者扱いされ、この場からつまみ出されて私の復讐計画は台無しになる。
そんな妄想を打ち消すように、声をかけてきた男性は優しい言葉で存分な甘えを私に与えてくれる。
「……お兄さん、とても綺麗な顔立ちですね」
「お兄さんはやめろ。どうせ、たいして年齢は変わらないだろ」
「顔に関しては否定しないんですね」
「女に声をかけられる回数が多い自覚はあるからな」
「ふふっ、面白いです。お兄さん」
世を生きる女性の平均身長を下回る私は、声をかけてきた男性の身長の高さに驚かされる。
けれど、男性は私に親しみやすい空気を与えながら話を弾ませてくれる。
おかげで驚くくらいの身長差も、私が抱えている勇者復讐計画が聞かれてしまったことも気にならなくなってくるから不思議だった。
「ローレッド・ドフリー」
「あ、お名前ですね!」
お兄さんと呼ばれることに耐えかねたのか、素敵な容姿と声を持つ男性は名乗らなくても支障のなさそうなのに、私に貴重な名を教えてくれた。
「私はフェミリア・ウィネットと申します……が、リアという略称で呼ばれることが多いかと……」
「ん、まあ、適当に呼びやすい方で呼ぶ」
「よろしくお願いいたします」
名前を知るのは、特別なこと。
名前を呼ぶことができるのは、もっと特別なこと。
まだ出会って数分しか経っていないのに、ローレッド様は私にとっての特別を与えてくれた。
「ローレッド様、注目されていますね」
「まあ、モブみたいな顔の勇者候補が多いからだろ」
暇を持て余している人たちは、勇者・聖女候補の顔面チェックに勤しんでいた。
1番目立つ美しい容姿をしているローレッド様が見つかってしまうのに、時間はほとんどかからなかったかもしれない。
「ローレッド様は自信家ですね」
「自信がなきゃ、勇者オーディションなんて受けに来ない」
「確かに……」
ローレッド様の話し相手になっている自分は、まるで特別な存在に扱われているような気分になってくる。
それだけ多くの人たちにローレッド様が注目されているのが分かって、顔に籠るはずのなかった熱のようなものを感じ始める。