「俺の元に来るか?」


 毒耐性という使えない体質を持つ私の前に現れた方。


「おまえのその毒耐性、俺たちのために役立てる気はないか?」


 それは、勇者様と敵対する存在。

 魔王様だった。


「アリアナ、スゴいね! 無敵だね!」

「でも……毒魔法の盾になることくらいしか……」

「それができるってところがスゴいんだよ!」


 魔王様の仲間たちは、とても良い人たちばかりだった。

 世界を滅ぼす存在なんて思えないくらい優しい人たちばかりで、私は新しく歩み始めた人生に喜びを抱くことができるようになった。


「アリアナ」

「はい、魔王様」

「あ……いや、その……確かに俺は魔王だが……」

「どうかなさいましたか?」


 魔王様と交わす言葉1つ1つが、私の心をいつも元気づけてくれた。


「俺の名前、分かるか?」

「デルバート・ルーサム様ですよね」


 私が所属していた……元仲間の勇者様パーティとの戦闘は長きに及び、決して楽しいことばかりの日々ではなかった。

 それでも魔王様と一緒に過ごす時間というものが、日々の戦闘で荒んでいくはずの心を癒してくれる。


「名前で呼んでくれないか」

「…………」


 私は次第に、私に優しさを与えてくださる魔王様に恋をした。


「っ、無理です!」

「どうして?」

「魔王様は魔王様だからです……」


 魔王様への恋心を自覚したからといって、魔王の配下である私が恋心を抱くなんて許されない。


「アリアナ、俺はおまえに名を呼んでほしい」

「何度頼まれても、無理なものは無理……」


 魔王様には、世界を滅ぼすという目的がある。

 色恋に溺れていい存在ではないことは、配下である私が十分理解をしていた。


「命令すれば、呼んでもらえるのか?」

「………それも、お断りします」


 結局私は、魔王様のことを名前で呼ぶことができなかった。

 最後の、最期まで。


「アリアナ、あのとき君を殺しておけば良かったね」


 私の人生の終わりは、勇者様の一撃だった。

 毒沼に浸かっていた私を拾ってくれた勇者様の剣に貫かれて、私は命を落とした。


「アリアナ! しっかりしろ!」

「魔王様……」


 いくら毒に耐性があっても、心臓を貫かれた私は命を保っていられない。


「次の人生では……魔王様の名前を……呼ばせて……」


 自分の身体から多くの血が溢れる様子を目にしながら、私は人生を終えた。