「口止め……ということですよね?」

「まあ、そうしてくれると助かるけど無理強いはしないよ」

「……そうですか」


 行為に及んでいたことの口止め料としての食事だと思っていたけれど、攻略対象1のアルフレズはあくまで紳士に私と接してくる。


「……ああいう関係にならないといけないくらい、国は危機的状況なんですか?」

「トウマがやっている世界を守るための戦いと、僕がやっていることはまったく違う。僕がやっているのは、あくまで主人の顔を立てるだけのことでしかないから」

「……そうですか」


 さっきから、そうですかという言葉しか返さない私。

 面白い会話にならないことを申し訳ないと思いつつ、久しぶりの豪勢な食事に私の手は止まるという言葉の意味を知らなかった。


「……美味しいです!」

「国を救ってもらっているお礼になるかな」

「十分すぎます!」


 テーブルの上には、私が食べて美味しいと感じる物ばかりが並んでいる。

『エンドレス・エタニティ』の世界に転移して間もないとはいえ、アルフレズなりに私の情報を集めてくれていたのかもしれない。


「アルフレズ様は、剣技がお得意とトウマから伺っておりますが……」

「元騎士団所属だからね」

「そうですか……」


 アルフレズルートでは、女たらしが更生するまでの物語が描かれるとトウマから聞いている。

 それ以外の情報を得ようと試みるものの、相変わらず『そうですか』で会話を済ませてしまう……。


(……そもそも、実際に喋ってみると女たらしの要素がない気がする……)


 トウマに見せられた光景は幻だったのかと疑いが生まれてしまうほど、アルフレズから女性を誘惑して弄ぶような気配を微塵も感じない。

 むしろアルフレズは、乙女ゲームでいうところの王子様キャラを想像してしまうほど紳士的。


「リッカは、世界を守ることに恐怖を感じない?」

「……この世界で、女性は守られるべき存在だって伺っています」

「古めかしい考えとは言われているけれど、僕も概ねその意見には賛同している」

「元騎士様、ですものね……」


 自分のことを語り出すアルフレズを見て、これはもう恋愛フラグが立っちゃったんじゃないのと過信してしまう自分は乙女ゲーム慣れしていないというのか馬鹿なのか。


「トウマと一緒に戦うことができるから、私は強くいられます」


 ここで、ヒロインっぽい台詞を加えてみる。


「……トウマは昔から魔法士としての才能に優れていてね」


 ん?

 ヒロインっぽい台詞を口にしてみたけれど、アルフレズからトウマへの嫉妬心が生まれてしまいそうな流れになってしまった。


「ア……」

「リッカ?」

「アルフレズ様も、凄腕の騎士様だったと伺っていますよ!」


 そんな話、聞いたこともない。

 けれど、せっかく恋愛フラグが立ちそうなところでミスするわけにはいかない。