(私を必要としてくれるのは、トウマだけ……)


 花なんて見ても、美しくない。

 いや、綺麗だなって感情は私にも存在するけど、花を見たところで私の気持ちは喜びを感じない。


「リッカ……だったよね?」


 私には、なんとか令嬢のような華麗なる日々は相応しくない。

 破滅的な毎日だって、絶対に過ごしたくない。

 そんな私を迎えに来てくれたのは、王子様でもなんでもなくて……。


「アルフレズ様……!」


 花を見ても嬉しくないとか失礼なことを思っていたことに天罰が下されたのかもしれない。

 心の準備が整う前に例の人物が現れ、彼は何事もなかったかのように攻略対象1らしい素敵な笑みを振りまいてくる。


「えっと……トウマに用ですよね?」


 落ち着け、落ち着こう。

 私はトウマの力で異世界召喚された聖女ですという挨拶回りをしていたときに、アルフレズにも自分の名前を名乗っている。

 彼に名前を呼ばれただけのことで、心臓に大打撃を与えるわけにはいかな……。


「一緒に食事でもどうかなと思って」

「……トウマと一緒に……」

「トウマ? 僕はリッカにお詫びをしたいと思っているんだけど」

「…………」


 アルフレズが枕営業を通して、国の平和を維持していたことに関して。

 あのとき、あの場に居合わせたのは私だけだったということになっていて、今更ながらトウマが魔法士という職業だったことを思い出す。


(自分だけ、透明化になる魔法を使うなんて狡い……)


 すべては、トウマの計算で事は進んでいた。

 今度こそ『エンドレス・エタニティ』をハッピーエンドで終わらせたいというトウマの意気込みが伝わってはくるものの、私はアルフレズと食事をする流れになってしまった。

 これが恋愛イベント1というものなのかなんなのか……。


「……こ……これは……!」

「気に入ってもらえたかな?」

「すっごく美味しそうです!」

「それは良かった」


 食欲がなくなっていたことなんて忘れてしまうくらい。

 アルフレズに用意してもらった食事会では豪勢な食事が私を出迎えてくれた。

 さすがアルフレズは国の重鎮に仕える秘書なだけあって、稼ぎがある! 

 貧乏魔法士のトウマとは食事の質が違い過ぎる……。


「いただきます」

「召し上がれ」


 私もトウマも、乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』をプレイしたことはない。 

 トウマは何百回も似たり寄ったりの展開を繰り返すループ状態に陥っているから、出来事の流れは大体把握している。

 けれど、恋愛フラグを立てるための正しい選択肢は誰も知らない。

 プレイヤー()が鍵を握っているってことは、私も重々承知しているつもり。