「どう言うことですか?」

「僕の朗読で、気持ち悪いところがないかを全部指摘してほしい」

「私なんかの指摘で役に立つんですか?」

「佐川さんの耳の良さは天才だからね」

「……はぁ?」


何をどうすれば、そう思われるのかは分からなかったが、あまりにも立川先輩が


「1度だけでいい」


と頭まで下げてくるので、1度だけのつもりで、立川先輩の練習に付き合った。

そして、なんとなく思ったことを伝えた。

言い方としては


「文字と音が噛み合わない」

「なんか、しっくりこない」


という、いかに自分に語彙がないかをあらわにするような感じだったが。

でも、立川先輩はそれを全て原稿にメモをしてくれて、何度も繰り返し、私の違和感がなくなるまで読んで確認をしてくれた。

私も、1度だけのつもりだったのに、立川先輩の熱にぐいぐい心を持っていかれて、ついつい何時間も、何日も練習に付き合ってしまった。

その結果、立川先輩は初の予選突破だけじゃなくて、なんと全国大会で優勝してしまったのだ。



「君が放送部に来てくれて良かった」



と、春から夏にかけて、立川先輩も田村先輩も言ってくれた。

でも私はその言葉に半信半疑だった。

放送部は、廃部寸前だった。

新入生が一人でもいないとこの部が存続できなかったことを、入部してからすぐに顧問の先生から聞かされていたから。

大事な新入生を逃したくないからついた、お互いを傷つけない心地の良い嘘だと思っていた。

私には、言われるほどの価値はないと、思っていた。



だけど、私の指摘で立川先輩がぐんぐんと成果を上げていき、結果を出してくれたことで、私はようやく


「あ、放送部って私のこと必要としてくれてるんだ」


と思うことができた。

この部に自分が存在することが、許されたと思った。

新しい生きがいを、見つけることができたと思った。




でも。

もしも、この時にアイツのことすら忘れることができていれば。

この幸せと自信を2度と手放さなくてはいけないことなんて、なかったと思うのに。

アイツは私が忘れられそうと思ったタイミングで、気配を残していく。

アイツの好きな曲のタイトルと、アイツのかもしれないメールアドレスしかヒントがないリクエストメールが定期的に届くから。


アイツは、どんどん手が届かない存在になっていると言うのに。