「琴莉?」

「もう、話さないで。あなたが本当にナオくんなら……お願い……」


私は必死でお願いした。


「私が大好きなナオくんが、どんどんいなくなっちゃう」

「いなくならない」

「だってもう、私が知ってるナオくんはいない」


身長も変わった。

体格も変わった。

服装も。

髪型も……色でさえも。

もう、私と仲良くしてくれてたナオくんが……私だけのナオくんが……この世界から消えてしまった。

どんどん、新しいナオくんで埋め尽くされていく。

私の記憶が。

幸せだった記憶が。

私の知らないナオくんで押し潰される。

だからせめて、声だけでも……。

私に話しかけてくれる声だけは、私だけのものであって欲しい。

何度も耳がすり減るかと思うほど、頭の中で再生したナオくんの声。

それなのに。

もう、その声すら私から消えようとしている。

たった1つの、私の支えだったのに。


「話さないで」


消さないで。


「誰の声も、もう聞きたくない」


私の脳から、奪わないで。

もう誰も、私の中に入ってこないで。


「ごめん、それはできない」


そんな声が聞こえたと同時だった。

彼が、私をより強く抱きしめてきたのは。



「琴莉、俺は琴莉を知りたいんだ」


そう言った彼の声は知らない声だったけど。

ふと見上げた時に合った目は、あの頃のナオくんのように、優しかった。