小さいからという単調な理由でつけた名前だというのに、妙に気に入っているのか義仲は自分だけが小子を小子と呼ぶのだと言ってきかない。そのこともあって、小子も彼以外の人間から小子と呼ばれることが想像できないでいる。
 つまり、巴のように戦姫などという二つ名をつけた方がこの場を落ち着かせることができるのだろうと小子はようやく悟り、小声で呟く。
 幼いころに知った花の名前が思い浮かぶ。それが、初めて出逢った夜に義仲が言ってくれた言葉とひとつになる。
「でしたら、款冬姫(ふきひめ)と」
「ふきひめ?」
 巴と親忠が顔を合わせて訊き返す。
 小子の髪を撫でつづけている義仲は、彼女が何を思ってその名に至ったか感づいたらしい。満足そうに彼女の髪に口づける。
「彼女はたえ鬼に憑かれていようが冬を呼ぶ姫ではない。凍てついた冬を款く花のような姫が、小子なのだ」