「つまり、復縁をしたかったみたいなんです」
「そうだったんですか。こんなこと言っては何ですけど、ああいう方は、あまり執着をしないタイプに見えました。特に僕が描きたいと思うものもなかったですし……」
「ああ……。自分でも無自覚なんですよね。だから、かえって厄介なんです」
あの後、トウコの鑑定でも、復縁は有り得ないと出ていたようだ。
しかし、ここで美聖とトウコが違うのは、鑑定結果の伝え方だった。
漏れ聞こえたトウコの声は、揺るぎのない強い意志を持っていた。
食い下がる容子に対して、きっぱりと『復縁はありえない』と、言い切っていた。
彼に未練があることを、ぼんやりとだけは認めていた容子だったが、その後はトウコに何とかして欲しいの一点張りだった。
『貴方、霊能者なんでしょ。人の縁を結ぶのが仕事なんじゃない。お金はいくらでも払うから、彼と結婚させて欲しい』
どうやら、彼と復縁をして結婚もしたかったようだ。
そんな無茶な依頼、引き受けることなど出来ない。でも、伝え方はある。
トウコは、あくまでも落ち着いていた。
『人の縁だからこそ、うかつに霊能なんかで立ち入れないんですよ。貴方がこだわっている……前世で彼に縁があったからこそ、今生では縁を切る方向に運命が動いたのではないですか。その縁を第三者が介入して修正するなんて、そら恐ろしいこと、私には出来ません』
――一刀両断だった。
美聖は崇めるように、両手を重ねあわせて、その時のことを降沢に伝えた。
「あの時のトウコさん……ものすごく、格好良かったんですよ」
「えっ、あれの、どこが? あいつの見た目が怖いから、女性も言い返せなかっただけでしょう?」
降沢は、顔をひきつらせている。
「そんなことありませんよ」
占い師ではない彼には、トウコの凄さが分からないのだ。
(だって……)
上手い説得方法だった。有無をも言わさない迫力すらまとっていたのだ。
「トウコさんが、あの占いの後に話してくれました。人の縁って、旧式のテレビのチャンネルみたいだって。ガチャガチャと自動でダイヤルが回り続けていて、ぱっと繋がった人と繋がるけれど、また少しすると、自動的にチャンネルは切り替わるそうです」
「あのオカマ……。分かりやすそうで、分かりにくい説明をしますね」
「えっ、そうですか? 私は腑に落ちましたけど?」
美聖は笑いながら、肩をすくめた。
「人生のチャンネルって、なんか良い響きじゃないですか。ずっと長く止まったままの場合もあるけれど、回転の速い人もある。また逆戻りして、繋がる人もいるけれど、もう二度と繋がらない人もいる。そう考えると、人の縁って本当に神秘的だなって思います」
賑わいを見せている小町通りで、楽しそうにお店を巡っている沢山の人達に目を向ける。
(この人たちだって、何処かで奇跡的な確率でつながって、今ここにいるんだろうな……)
――だとするのなら、美聖が降沢やトウコに出会ったことも、地球規模で凄いことなのだろう。
日ごろ、ほとんど考えもしないことだが……。
降沢も美聖と同じようなことを考えたのか、独り言のように呟いた。
「家族でも、友人でも、恋人でも、みんな自分とは違う、あかの他人ですからね。自分が向ける好意と、相手の好意がまったく同じになるはずがない。それがあまりにも乖離していた場合、人間関係は破綻するのかもしれません」
「……ですね。時間の流れと同じく、人の気持ちも変わっていきますからね。それがトウコさんの言っていた『チャンネル』のことなのかもしれませんね」
「僕はひきこもりで、人間関係を築こうという意志すらなかったんです。執着もないので、去る者追わずと言った感じで……。だから、少し前までは、あの店にそういった内容で鑑定に来る人が理解できなかったんですよね」
「あー…………分かるような気がします」
降沢があの店で、トウコと美聖以外と話しているところを一度も見たことがない。
開店してから、五年。
毎日、あの定位置にいるにも関わらず……だ。
「でもね。最近は何となく、分かるようになってきたんです。その人でないと、駄目なんだって思うその気持ちが……」
「すごいじゃないですか。一歩どころか、かなり人間として、前進していると思います」
降沢が何となく美聖に話を合わせているのではなく、自分でそれを理解した上で、話しているのなら、それは素晴らしい変化だ。
人間同士、執着も未練も、恋情も嫉妬も共感できるからこそ、縁を結び直すことが難しいことも理解できるのだ。
『まったくね……。アイツの人として成長は、十五歳くらいで終わっているのよ。変に期待しないこと。それに尽きるわね』
そんなふうに、愚痴っぽく語っていたトウコに教えてあげたかった。
「そうだったんですか。こんなこと言っては何ですけど、ああいう方は、あまり執着をしないタイプに見えました。特に僕が描きたいと思うものもなかったですし……」
「ああ……。自分でも無自覚なんですよね。だから、かえって厄介なんです」
あの後、トウコの鑑定でも、復縁は有り得ないと出ていたようだ。
しかし、ここで美聖とトウコが違うのは、鑑定結果の伝え方だった。
漏れ聞こえたトウコの声は、揺るぎのない強い意志を持っていた。
食い下がる容子に対して、きっぱりと『復縁はありえない』と、言い切っていた。
彼に未練があることを、ぼんやりとだけは認めていた容子だったが、その後はトウコに何とかして欲しいの一点張りだった。
『貴方、霊能者なんでしょ。人の縁を結ぶのが仕事なんじゃない。お金はいくらでも払うから、彼と結婚させて欲しい』
どうやら、彼と復縁をして結婚もしたかったようだ。
そんな無茶な依頼、引き受けることなど出来ない。でも、伝え方はある。
トウコは、あくまでも落ち着いていた。
『人の縁だからこそ、うかつに霊能なんかで立ち入れないんですよ。貴方がこだわっている……前世で彼に縁があったからこそ、今生では縁を切る方向に運命が動いたのではないですか。その縁を第三者が介入して修正するなんて、そら恐ろしいこと、私には出来ません』
――一刀両断だった。
美聖は崇めるように、両手を重ねあわせて、その時のことを降沢に伝えた。
「あの時のトウコさん……ものすごく、格好良かったんですよ」
「えっ、あれの、どこが? あいつの見た目が怖いから、女性も言い返せなかっただけでしょう?」
降沢は、顔をひきつらせている。
「そんなことありませんよ」
占い師ではない彼には、トウコの凄さが分からないのだ。
(だって……)
上手い説得方法だった。有無をも言わさない迫力すらまとっていたのだ。
「トウコさんが、あの占いの後に話してくれました。人の縁って、旧式のテレビのチャンネルみたいだって。ガチャガチャと自動でダイヤルが回り続けていて、ぱっと繋がった人と繋がるけれど、また少しすると、自動的にチャンネルは切り替わるそうです」
「あのオカマ……。分かりやすそうで、分かりにくい説明をしますね」
「えっ、そうですか? 私は腑に落ちましたけど?」
美聖は笑いながら、肩をすくめた。
「人生のチャンネルって、なんか良い響きじゃないですか。ずっと長く止まったままの場合もあるけれど、回転の速い人もある。また逆戻りして、繋がる人もいるけれど、もう二度と繋がらない人もいる。そう考えると、人の縁って本当に神秘的だなって思います」
賑わいを見せている小町通りで、楽しそうにお店を巡っている沢山の人達に目を向ける。
(この人たちだって、何処かで奇跡的な確率でつながって、今ここにいるんだろうな……)
――だとするのなら、美聖が降沢やトウコに出会ったことも、地球規模で凄いことなのだろう。
日ごろ、ほとんど考えもしないことだが……。
降沢も美聖と同じようなことを考えたのか、独り言のように呟いた。
「家族でも、友人でも、恋人でも、みんな自分とは違う、あかの他人ですからね。自分が向ける好意と、相手の好意がまったく同じになるはずがない。それがあまりにも乖離していた場合、人間関係は破綻するのかもしれません」
「……ですね。時間の流れと同じく、人の気持ちも変わっていきますからね。それがトウコさんの言っていた『チャンネル』のことなのかもしれませんね」
「僕はひきこもりで、人間関係を築こうという意志すらなかったんです。執着もないので、去る者追わずと言った感じで……。だから、少し前までは、あの店にそういった内容で鑑定に来る人が理解できなかったんですよね」
「あー…………分かるような気がします」
降沢があの店で、トウコと美聖以外と話しているところを一度も見たことがない。
開店してから、五年。
毎日、あの定位置にいるにも関わらず……だ。
「でもね。最近は何となく、分かるようになってきたんです。その人でないと、駄目なんだって思うその気持ちが……」
「すごいじゃないですか。一歩どころか、かなり人間として、前進していると思います」
降沢が何となく美聖に話を合わせているのではなく、自分でそれを理解した上で、話しているのなら、それは素晴らしい変化だ。
人間同士、執着も未練も、恋情も嫉妬も共感できるからこそ、縁を結び直すことが難しいことも理解できるのだ。
『まったくね……。アイツの人として成長は、十五歳くらいで終わっているのよ。変に期待しないこと。それに尽きるわね』
そんなふうに、愚痴っぽく語っていたトウコに教えてあげたかった。