「私も降沢さんと同じです。あの人が……私が占うと誉めてくれて……。占い好きだったから。まさか、これを仕事にすることになるなんて思ってもいなかったんですけどね」
「では……一ノ清さんは、その方が亡くなるまでは、占い師になるつもりはなかったんですね?」
「お恥ずかしいことですが、まさかプロになるなんて、想像もしていませんでした。今でも、どきどきしていますし、もっと勉強して、どこかの先生に弟子入りしてから然るべくして、デビューした方が良かったんじゃないかなって、毎日葛藤しているんですけど」
「……でも、結局、君は浩介の目に留まって、ここにいるわけじゃないですか」
「自分でも、ラッキーだったと思います」
「占い師風に、導かれたってことで良いのでは?」
降沢はヒマワリのバレッタを注視しながら、さりげなく、しかし優しい口調で、美聖に説いた。
「以前、浩介が言っていたんですけど。先生と呼ばれる職業なのに、占い師には資格がなくて。だから、お金を取らずに、趣味の範囲で鑑定することもできるって。でも、プロになってお金をもらうようになったのなら、きっと、それは多くの人間を鑑定するように、導かれたんだろうって。役割だと思って自分を戒めていないと、いきなり先生と呼ばれるようになって、潰れたり、高慢になったり……しちゃうからとか……」
「その発想って、とっても、トウコさんらしいですね」
「いろんな占い師がいて、ただお金儲けでしている人も中にはいるのでしょうけど。君は違う。ちゃんと勉強もしているようだし、もう少し自信を持った方が良いと思います。先日の黒石芽衣さんのことも気にしているようですけど、彼女もきっと大丈夫ですよ」
表立って、何も言ってこなかったが、降沢の観察眼も侮れない。
結局、美聖の悩みなんて、降沢にもトウコにも、筒抜け状態だったのだ。
「ありがとうございます。なんか私だけ、すっきりしてしまったような気がします」
「いえいえ。むしろ、上手い言葉が出てこなくて、申し訳ない気分ですよ」
降沢が苦笑している。
あまり店内で喋らない人だ。こんなに話している時点で、とてつもなく珍しいことである。
「……あっという間ですね」
美聖はしゃがんだ姿勢のまま、少しだけ絵に近づいて歓声を上げた。
鉛筆一本で、ヒマワリが写実的に表現されていく。
しかも、ありのままを描いているわけではなく、降沢が手を加えている部分がまた一層華やかさを増していて……まったく異なるヒマワリの絵となっていた。
アトリエでない分、恐怖心も生まれない。ただ、美聖は驚嘆するだけだ。
(……すごい)
すでに、それはただのバレッタのヒマワリではない。
明らかに、ヒマワリを見ながら描いたと思える美しい大輪の花の一枚。
降沢在季の絵だ。
まるで、絵の中に、あらゆる感傷を染み込ませていくように……。
無から有が生まれる。
魔法を見ているような気分だった。
この姿を目の当たりにして、ファンにならない人はいないんじゃないかと、思い込んでしまうほどに、降沢は『画家』をしていた。
「一ノ清さん、この絵に……何か……感じますか?」
「いえ、まったく……。でも、綺麗だけど、ちょっと物悲しい気持ちにはなりますね」
禍々しいものは、何も感じない。
「これは、本当に言いにくいことなんですけど」
「なんですか?」
「少しだけ『慕情』に通じるものも、あるかもしれません」
「ああ……やっぱりか」
降沢は、想定内だったらしい。
軽い溜息を吐き捨てながら、ゆるゆると美聖に目を合わせた。
「一ノ清さん……。ヒマワリの花言葉って、知っていますか?」
「では……一ノ清さんは、その方が亡くなるまでは、占い師になるつもりはなかったんですね?」
「お恥ずかしいことですが、まさかプロになるなんて、想像もしていませんでした。今でも、どきどきしていますし、もっと勉強して、どこかの先生に弟子入りしてから然るべくして、デビューした方が良かったんじゃないかなって、毎日葛藤しているんですけど」
「……でも、結局、君は浩介の目に留まって、ここにいるわけじゃないですか」
「自分でも、ラッキーだったと思います」
「占い師風に、導かれたってことで良いのでは?」
降沢はヒマワリのバレッタを注視しながら、さりげなく、しかし優しい口調で、美聖に説いた。
「以前、浩介が言っていたんですけど。先生と呼ばれる職業なのに、占い師には資格がなくて。だから、お金を取らずに、趣味の範囲で鑑定することもできるって。でも、プロになってお金をもらうようになったのなら、きっと、それは多くの人間を鑑定するように、導かれたんだろうって。役割だと思って自分を戒めていないと、いきなり先生と呼ばれるようになって、潰れたり、高慢になったり……しちゃうからとか……」
「その発想って、とっても、トウコさんらしいですね」
「いろんな占い師がいて、ただお金儲けでしている人も中にはいるのでしょうけど。君は違う。ちゃんと勉強もしているようだし、もう少し自信を持った方が良いと思います。先日の黒石芽衣さんのことも気にしているようですけど、彼女もきっと大丈夫ですよ」
表立って、何も言ってこなかったが、降沢の観察眼も侮れない。
結局、美聖の悩みなんて、降沢にもトウコにも、筒抜け状態だったのだ。
「ありがとうございます。なんか私だけ、すっきりしてしまったような気がします」
「いえいえ。むしろ、上手い言葉が出てこなくて、申し訳ない気分ですよ」
降沢が苦笑している。
あまり店内で喋らない人だ。こんなに話している時点で、とてつもなく珍しいことである。
「……あっという間ですね」
美聖はしゃがんだ姿勢のまま、少しだけ絵に近づいて歓声を上げた。
鉛筆一本で、ヒマワリが写実的に表現されていく。
しかも、ありのままを描いているわけではなく、降沢が手を加えている部分がまた一層華やかさを増していて……まったく異なるヒマワリの絵となっていた。
アトリエでない分、恐怖心も生まれない。ただ、美聖は驚嘆するだけだ。
(……すごい)
すでに、それはただのバレッタのヒマワリではない。
明らかに、ヒマワリを見ながら描いたと思える美しい大輪の花の一枚。
降沢在季の絵だ。
まるで、絵の中に、あらゆる感傷を染み込ませていくように……。
無から有が生まれる。
魔法を見ているような気分だった。
この姿を目の当たりにして、ファンにならない人はいないんじゃないかと、思い込んでしまうほどに、降沢は『画家』をしていた。
「一ノ清さん、この絵に……何か……感じますか?」
「いえ、まったく……。でも、綺麗だけど、ちょっと物悲しい気持ちにはなりますね」
禍々しいものは、何も感じない。
「これは、本当に言いにくいことなんですけど」
「なんですか?」
「少しだけ『慕情』に通じるものも、あるかもしれません」
「ああ……やっぱりか」
降沢は、想定内だったらしい。
軽い溜息を吐き捨てながら、ゆるゆると美聖に目を合わせた。
「一ノ清さん……。ヒマワリの花言葉って、知っていますか?」