(私……対面鑑定、初めてなんだけどな……)
電話鑑定に関しては、慣れつつあったが、やはり対面鑑定となると、どきどきする。
お客さんのことや、トウコさんを怪しく思っていた今までの自分を殴ってやりたかった。
この内装で、一人も来ないということは絶対に有り得ないだろう。
「そんなに、緊張しなくても大丈夫よ。美聖ちゃんは美聖ちゃんらしくしていてくれれば良いんだから……」
「……はい……頑張ります」
美聖は付け焼刃な笑顔を作ってみせながら、円卓の前まで歩いた。
(本当に私で、良かったのかしら?)
疑問が尽きない。
そもそも、対面鑑定を希望している占い師は多いのだ。
特に、このような雰囲気のある場所で、鑑定をすることができるのなら、応募者も殺到するはずだ。
「あの……トウコさん?」
不安をそのままに、呼びかける。
しかし、後ろにいるはずだと思っていたトウコはいなかった。
「あれ、どこに?」
たった今まで、存在感たっぷりに、そこにいたはずだ。
「トウコさん? どこですか?」
きょろきょろと、周囲を見渡す美聖だったが、そうしているうちに、ふと一枚の絵に目が留まった。
窓際の席の横に飾られている、小さな一枚の絵。
額縁は茶色で、室内のインテリアと見事に調和しているので、今までまったく気がつかなかった。
絵の中央に、大輪のユリの花が大きく描かれている。油絵だった。
「これは…………」
特に、奇抜な絵でもない。
(花の絵なんて……)
背景は黒に見えたが、それは光を際立たせるための技法だ。
おそらく、月夜なのだろう。花弁が艶やかに白光りをしているのは、月明かりを浴びているせいだ。写実的で美しい絵画である。たった、それだけの絵なのに……。
「綺麗……なのに」
――怖い。
どうして、美聖の震えは止まらないのだろう?
そのうち、絵の中から背景の黒と、ユリの白色が同時に飛び出してくるような幻覚に襲われた。
「えっ……何で!?」
明らかに、この絵はおかしい。
驚いて後退した拍子に、美聖の肩にこつんと何かが触れた。
誰かの胸元にぶつかったらしい。
当然、トウコだろうと思い込んで、勢いよく振り返ると、そこにいたのは、別人だった。
「きゃっ!」
色気の欠片もない悲鳴をあげて、美聖はその人物から遠ざかった。
男性だというのは、外見で分かったものの、長い前髪で表情がまったくうかがえない。
白いシャツとチノパン姿は、この空間の中で異質に思えた。
(一体、いつからここにいたんだろう?)
男性は窓から室内に入ったようだった。証拠に、大きなガラス窓は全開となっている。
「貴方は一体……?」
おろおろと、美聖はトウコを捜すものの、一方で、男から目を離すことができない。
「あっ、合格です。一ノ清 美聖さん」
謎の一言と共に、男が髪を掻き分けた。
切れ長の瞳が露わとなると、美聖の視線は彼の美形に釘付けとなった。
細面の顔に、整った鼻梁、きりりとしまった口元。
ドラマや漫画の世界だけだと思っていた。
素顔が明らかになると、見目麗しいなんて……。
すっかり、その容姿に惹きつけられてしまった美聖は、その直後鳴り響いた拍手に、大仰に反応してしまった。
「ほーら、やっぱりね!」
「な、何っ?」
どこに潜んでいたのだろう。
トウコがすたすたと、こちらに向かって来る。
「だーから、言ったじゃないの!? ざまあ見なさい」
「はっ? トウコ……さん?」
「私の目に狂いはないって。美聖ちゃんは『良い目』を持っているわ」
「でも、彼女と会ったこともないって、言っていたじゃないですか?」
男が淡々と言い返す。
……が、トウコも負けてなかった。
「なめてもらっちゃ困るわよ。私だってね、まだそのくらいは分かるんだから。私が採用したのよ。勝手に合格扱いされるのも、上から目線で不愉快だわ」
「…………あのー?」
美聖は勝手に言い争いを始めてしまった二人を見比べながら、おそるおそる口を挟んだ。
「あら、嫌だ」
トウコは、くすくすと肩をすぼめて笑うと、お綺麗な男性を指差しで紹介したのだった。
「紹介が遅くなっちゃったけど、この人がここの店『アルカナ』のオーナーで、画家の降沢 在季」
――画家?
その時、美聖は生まれて初めて『画家』と職業を持つ人物を目の当たりにしたのだった。
電話鑑定に関しては、慣れつつあったが、やはり対面鑑定となると、どきどきする。
お客さんのことや、トウコさんを怪しく思っていた今までの自分を殴ってやりたかった。
この内装で、一人も来ないということは絶対に有り得ないだろう。
「そんなに、緊張しなくても大丈夫よ。美聖ちゃんは美聖ちゃんらしくしていてくれれば良いんだから……」
「……はい……頑張ります」
美聖は付け焼刃な笑顔を作ってみせながら、円卓の前まで歩いた。
(本当に私で、良かったのかしら?)
疑問が尽きない。
そもそも、対面鑑定を希望している占い師は多いのだ。
特に、このような雰囲気のある場所で、鑑定をすることができるのなら、応募者も殺到するはずだ。
「あの……トウコさん?」
不安をそのままに、呼びかける。
しかし、後ろにいるはずだと思っていたトウコはいなかった。
「あれ、どこに?」
たった今まで、存在感たっぷりに、そこにいたはずだ。
「トウコさん? どこですか?」
きょろきょろと、周囲を見渡す美聖だったが、そうしているうちに、ふと一枚の絵に目が留まった。
窓際の席の横に飾られている、小さな一枚の絵。
額縁は茶色で、室内のインテリアと見事に調和しているので、今までまったく気がつかなかった。
絵の中央に、大輪のユリの花が大きく描かれている。油絵だった。
「これは…………」
特に、奇抜な絵でもない。
(花の絵なんて……)
背景は黒に見えたが、それは光を際立たせるための技法だ。
おそらく、月夜なのだろう。花弁が艶やかに白光りをしているのは、月明かりを浴びているせいだ。写実的で美しい絵画である。たった、それだけの絵なのに……。
「綺麗……なのに」
――怖い。
どうして、美聖の震えは止まらないのだろう?
そのうち、絵の中から背景の黒と、ユリの白色が同時に飛び出してくるような幻覚に襲われた。
「えっ……何で!?」
明らかに、この絵はおかしい。
驚いて後退した拍子に、美聖の肩にこつんと何かが触れた。
誰かの胸元にぶつかったらしい。
当然、トウコだろうと思い込んで、勢いよく振り返ると、そこにいたのは、別人だった。
「きゃっ!」
色気の欠片もない悲鳴をあげて、美聖はその人物から遠ざかった。
男性だというのは、外見で分かったものの、長い前髪で表情がまったくうかがえない。
白いシャツとチノパン姿は、この空間の中で異質に思えた。
(一体、いつからここにいたんだろう?)
男性は窓から室内に入ったようだった。証拠に、大きなガラス窓は全開となっている。
「貴方は一体……?」
おろおろと、美聖はトウコを捜すものの、一方で、男から目を離すことができない。
「あっ、合格です。一ノ清 美聖さん」
謎の一言と共に、男が髪を掻き分けた。
切れ長の瞳が露わとなると、美聖の視線は彼の美形に釘付けとなった。
細面の顔に、整った鼻梁、きりりとしまった口元。
ドラマや漫画の世界だけだと思っていた。
素顔が明らかになると、見目麗しいなんて……。
すっかり、その容姿に惹きつけられてしまった美聖は、その直後鳴り響いた拍手に、大仰に反応してしまった。
「ほーら、やっぱりね!」
「な、何っ?」
どこに潜んでいたのだろう。
トウコがすたすたと、こちらに向かって来る。
「だーから、言ったじゃないの!? ざまあ見なさい」
「はっ? トウコ……さん?」
「私の目に狂いはないって。美聖ちゃんは『良い目』を持っているわ」
「でも、彼女と会ったこともないって、言っていたじゃないですか?」
男が淡々と言い返す。
……が、トウコも負けてなかった。
「なめてもらっちゃ困るわよ。私だってね、まだそのくらいは分かるんだから。私が採用したのよ。勝手に合格扱いされるのも、上から目線で不愉快だわ」
「…………あのー?」
美聖は勝手に言い争いを始めてしまった二人を見比べながら、おそるおそる口を挟んだ。
「あら、嫌だ」
トウコは、くすくすと肩をすぼめて笑うと、お綺麗な男性を指差しで紹介したのだった。
「紹介が遅くなっちゃったけど、この人がここの店『アルカナ』のオーナーで、画家の降沢 在季」
――画家?
その時、美聖は生まれて初めて『画家』と職業を持つ人物を目の当たりにしたのだった。