「…………降沢さん、何を落ち着いているんですか?」
「落ち着いてはいませんよ。台風が去ったことに、安堵しているだけです」
「同じようなものですよね……」

 美聖は鬼の形相を降沢に向けたものの、彼はびくともしない。

「ご協力、ありがとうございます。一ノ清さん、三人同時に諦めてくれたみたいで、スッキリしましたよ」
「ちょっと待ってください。貴方は、彼女たちが見ていたことを知ってたんですか?」
「…………途中からですけどね」

 降沢がすまし顔で告白した。

「だから、あんなに自分を蔑むような発言をしたり、私に絡んでみたりしたんですね?」
「嫌だな。てっきり、一ノ清さんも協力してくれていたんだと思ったんですけどね。占い師なのに、人の気配に気づかなかったんですか?」
「占い師は忍者じゃないんですよ。こんな回りくどい……もっとも酷い仕打ちじゃないですか。最低ですよ」

 だが、美聖が激昂するほどに、降沢はクールダウンしていく傾向があるらしい。

「勝手に店に入って聞き耳立てているのも、不法侵入じゃないですか?」

 しれっと言い放ったのだった。

「君だって占ったのなら、彼女たちの性格が分かるでしょう。あの手の子たちは、逞しいものです。そんなに時もかけずに、ここに顔を出すでしょうから、心配はいりません」
「そんなこと、分からないじゃないですか?」

 ムッとしながら、答えるものの、トウコは降沢に同意らしい。
 重い溜息を吐いてから、説明してくれた。

「さっき、言いかけていたんだけどね。美聖ちゃん。ほら、このオッサン、見てくれだけは人並みでしょう。恋する女子高生とオッサン。季節ごとの恒例イベントみたいなものなのよね」
「…………はっ?」

 何だ。それは……?

「ある程度時が経つと、脈なしだって、諦めていくんだけど、三人同時はさすがに凄いかもしれないわ」
「……………………私は、ある種の当て馬みたいな存在だったと?」
「当て馬とは、ちょっと違うと思うけどね」

 いずれにしても、 美聖は降沢に良いように利用されたのだ。
 もう、辞めてしまいたいくらいに、恥ずかしいし、悔しい。
 更に追い打ちをかけたのは、その後の彼女たちだった。 
 果たして、降沢の言う通りだった。
 期末テストが終わったあたりで、彼女たちはふらりと現れたのだった。

「北鎌倉で気軽に安く占いができるところって、少ないじゃん?」

 そんな言い訳をしていたが、姫花には、すでに意中の相手まで出来ていた。
 他の二人はまだ降沢を引きずっているようだったが、ニートの三十路は彼女達の常識的にも論外だったらしい。

(画家だって、あの時言えば良かったのかしら?)

 困ったものだ、美聖は占いの場で、降ってくるメッセージを拾うのは得意だが、普段の生活において、他人の感情に疎いのだ。こんなことでは、プロでやっていくのは難しいような気もする。

 ………………一体、あの時の降沢の真意は何だったのか?