「帰りは私と一緒に行きましょう。出勤も一緒だと安心かもしれないわね?」

 美聖の気持ちとは裏腹に、トウコが気安く話しかけてくる。
 むしろ、この大男と一緒にいる時間の方が緊張しそうなのだが、ここまで来てしまったら、腹を括るしか選択肢もなかった。

(お金のためよ……)

 美聖は訳あって、現在シフト制のアルバイト生活だ。
 一年前に事務職を辞めてから、コンビニバイトと電話占い師の仕事を両立しているものの、まとまった収入とは程遠い。
 電話占い師は、売上の良い時は稼げるのだが、波がありすぎる。
 困り果てていた美聖に、電話占いで一緒に働いていたトウコが良い仕事があると紹介してくれて、怪しいとは思いつつも、北鎌倉までやって来たのだ。

 それこそ、藁にもすがる気持ちで……。

「トウコさん、ありがとうございます。ここなら家からも近いし、助かります」
「美聖ちゃんの実家って、逗子だものね……」
「はい。電車で二駅です。遠いところは通えないので、トウコさんに紹介してもらえて良かったです。そもそも、対面鑑定の仕事ってそれほど求人ないですから」
「メインは喫茶店の給仕だから時給制。まあ、占い師にとって、ある意味、待機保証があるなんて、画期的よねえ」

 にこやかに応じるトウコは、玄関の引き戸の前に突っ立たままだった美聖を、古民家の内部に押し込んだ。

「さあさあ、入って」
「……あっ、ちょっと」

 美聖は、慌てていた。営業時間前とはいえ、客が訪れる気配をまったく感じない。

(こんな山奥で占いなんて、需要があるのかしら?)

 しかも、男性と二人で仕事をすることになるなんて、お金に目が眩んで周囲が見えてなかったとはいえ、無防備すぎるだろう。
 だが、トウコに押しやられるようにして足を踏み入れた室内は、驚くほど開放的でモダンな造りをしていた。

「すご……い」

 真新しい大きな窓からは、たっぷり陽光が差し込んでいて、また、吹き抜けがあるため、一層室内が明るく感じられた。
 壁の白一色と、家具の茶色のバランスがシンプルで、またお洒落だ。
 今、流行りの古民家カフェがテレビや雑誌の世界ではなく、現実に存在している。
 テーブルの一つ一つに活けられた、一輪のバラの花がまた美しかった。
 抜群に、センスが良い。
 その時にはもう、最初のネガティブなイメージが、美聖の中でがらりと変わっていた。

「こんな所だったら、人気が出ますよね。占いなんてやらなくても、私が客として来たくなっちゃいます」
「取材もSNSもお断りしているからね。口コミだけなんだけど、それでも常連さんは多いのよ」
「口コミでも、本当にステキなところには、人が来ますものね」

 鎌倉には、ちょくちょく遊びに来る機会もある美聖だが、こんな素敵な喫茶店があるなんて、今までまったく知らなかった。

「占いするお客さんは、あの円卓に誘導して占ってね。二十分、三千円。十分延長でプラス千円ね」

 トウコは、喫茶室のすぐ横の円卓を指差した。
 大きな丸い円卓の前には一対一で向き合うようにして、椅子が置かれている。
 機密性保持のためなのか、ビロードのカーテンで喫茶スペースから仕切ることもできるようだ。月と星がデザインされているテーブルクロスの存在は、占いめいた雰囲気が十全に発揮されていた。