笠木さんの手は冷たくて、骨ばっている。だけど、じわりと笠木さんの温もりが伝わってくる。

その小さな温もりに、頬が緩む。

笠木さんの歩けるペースに合わせて足を進める。汐里先生がしていたように、笠木さんを支えながら歩くのは大変だが、少しでも役に立てるならと懸命に隣を歩く。

「力みすぎ」

笠木さんはつらそうにしているのに、優しく微笑んだ。

全身に力が入っているのは、自分でもわかっていた。緊張もあるが、一瞬でも気を抜くと笠木さんと共に倒れてしまうような気がしていた。

「普通に歩いて大丈夫だよ。ちゃんと手すり持ってるし」

そう言われて笠木さんの左手を見ると、しっかりと手すりを握っていた。

私の緊張を返してほしい。

「言ったろ?ただお嬢様と手繋ぎたいだけだって」

笠木さんは得意げに言うけど、私は余計に体温が上がってしまった。

笠木さんと手を繋げることは嬉しいけど、それ以上に恥ずかしかった。

横からまた笑い声が聞こえる。

「お嬢様、顔真っ赤」

まるでからかわれているような気分だ。

「笠木さんのせいです!」

照れ隠しで大声で言ってしまった。近くにいる患者さん、もしくはお見舞いに来た人、看護師の視線を独り占めしてしまい、さらに恥ずかしくなる。

「うん、知ってる」

笠木さんは周りを気にせず、歩き続ける。私は笠木さんに手を引っ張られるように足を踏み出した。

すぐに隣に立てそうな速さだったけど、なんとなく、このまま歩き続けるのも悪くないと思って、私は笠木さんの背中を見つめていた。

「おかえり、二人とも。って、小野寺さん大丈夫?顔真っ赤だけど、熱?」

笠木さんの病室に入ると、汐里先生が本気で心配してくれたけど、熱ではないと言い切れる。

「違うよ、汐里さん」

笠木さんは部屋の中に入っても手を離さない。

廊下を歩いている間もいろんな人に見られたけど、汐里先生に見られる方が恥ずかしくて、顔が上げられない。

ベッドに腰を掛けてもなお、私を見上げているだけで、離そうとしない。

「一回繋ぐと、離したくなくなるな」

笑いながら言われると、冗談なのか本気で言っているのかわからない。

だけど、離したくないのは私も同じで、少しだけ握り返した。

そうしたせいか、笠木さんは左手を私の手首に添え、そっとおろした。

離したくないと言ったのは嘘だったのだろうか。

「あんまり可愛いことしないように」
「可愛いこと……?」

聞き返すと、笠木さんは頭を抱えた。