その笑顔が何を表しているのか、わからなかった。

「そうだ、小野寺さんは玲生くんに会いに来たんだよね?呼んでくるよ」

私が聞くより先に、汐里先生は笠木さんを呼びに行ってしまった。

汐里先生に声をかけられた笠木さんが、私に気付く。私は軽く頭を下げる。

笠木さんは汐里先生に支えてもらいながら、私の近くにある椅子に座った。

その様子を見て、言葉が出ない。

「じゃあ、ごゆっくり」

先生は気を使ってくれたのか、また病室で待っていると二人きりにしてくれた。

「どうした、お嬢様。ここに来たら王子に怒られるんじゃねーの?」

笠木さんは優しい表情で言いながら、自分の隣を叩いた。私は笠木さんが叩いた場所に腰を下ろす。

「……婚約はお断りしてきました」

笠木さんは目を見開くと、私を睨んだ。

「逃げたのか?」
「それは違います!」

私の声が大きすぎて、休憩所にいるほとんどの視線を集めてしまった。私は恥ずかしくなり、顔を伏せる。

すると、笠木さんは私の頬に触れた。何事かと思い、横を向く。

「……そっか。変なこと言ってごめんな」

固い動きで首を左右に振ると、笠木さんの手は自然と離れた。

「きちんと話してきました。父も認めてくれました」

笠木さんの目は嘘だと言っている。

「本当ですよ?誰かを一途に思うことはいいことだ、と言われましたから」

笠木さんに疑われたことが嫌だったのか、変に必死に説明してしまった。

すると、笠木さんはにやりという効果音がふさわしいような笑みを浮かべた。

「お嬢様、それわかって言ってるか?」
「何をですか?」

笠木さんはさらに笑った。

「無自覚か」

私を嘲笑しているというより、照れ笑いをしているように見える。

「笠木さん?」

名前を呼んで説明を求めるけど、笠木さんは教えてくれない。

「なんでもないよ。そろそろ戻ろうか」

笠木さんはゆっくり立ち上がると、右手を差し出した。

「お手をどうぞ、お嬢様」

私はそっと手を重ね、立ち上がる。だけど、すぐにどうして笠木さんがそんなことをしたのかを察した。

「ご、ごめんなさい」

思いっきり体重をかけてしまった罪悪感から、私は手を離した。笠木さんは目を丸めたが、自分の右手を見つめ、切なそうに微笑んだ。

「ごめん、か……でも、ただ俺がお嬢様と手を繋ぎたいって思っただけだから」

笠木さんはもう一度手を出した。私は笠木さんの負担にならないように手を繋ぐ。