私がどうしたいかを、お父様は知りたいのか。だからさっき、今後どうしたい、なんていきなり聞いてきたのか。

ここは、素直に言うべきか……

「私は、笠木さんと一緒にいたいです。鈴原さんと結婚したく、ありません……」

後半の願いを言っている間に声が小さくなった。

親不孝者だろうか。お父様の会社のことを考えることが出来ない、最低な娘だろうか。

「その男の命がわずかだとしても、鈴原君と結婚するのは嫌か?」

迷わず首を縦に振った。

「彼だけを、愛しています……それ以外の方と、結婚する気はありません」

私の話を聞いてくれているとわかっていても、心の隅では怒られると思っているからか、声が小さい。

「それが円香にとっての幸せなんだな?」
「はい」

だけど、その質問には即答し、まっすぐお父様を見つめ返す。

「わかった。鈴原君には私から話しておこう」

お父様は立ち上がりながら、上着のポケットからスマホを取り出した。

「いいのですか……?」

ここまであっさりと認めてもらえるとは思っていなくて、自分からそんな確認をしてしまった。

お父様は片側の口角を上げる。

「誰かを一途に想う気持ちは悪くない。その気持ちを大切にしなさい」

お父様は私の頭に手を置きながら、リビングルームを出ようとした。

「お父様!」

私はその背中を呼び止める。お父様は立ち止まり、振り向いた。

お父様の今の言葉は、お父様自身が誰かを一途に思っているからこそ出てきた言葉だろう。

「お父様は、まだお母様のことを……?」
「ああ、愛している」

今までで一番優しい表情で答えてくれた。

お母様は、私が五歳のときに家を出ていった。

お母様のことを好きだという男性と再婚をしたくて出ていくのだと、教えられた。

そのころのお父様は仕事ばかりで、家にはほとんど帰っていなかった。

いや、仕事ばかりで家をほとんど空けるのは今も同じか。

「お母様を憎んだことはないのですか?」

お父様から愛されていることに気付かず、他の人と愛し合った。

普通、許せることではない。

「ない。もともと花織に一目惚れし、私は花織の家の財力もほしくて、結婚を申し込んだが、花織は私を好きではなかった。それで放置されていたら、誰だって嫌になるだろう」

お父様は切なそうに笑う。