それはお父様が決めたことで、私が望んだことではない。

「……政略結婚など、したくありません」

子供のように拗ねた態度をとってしまった。

「お嬢様ってのも大変なんだな」

どうしてこの人は私に告白をしておきながら、このような他人事のような態度ができるのだろう。

「あの感じだとあの人、相当お嬢様のことを大切に思ってそうで……よかった」
「……どういう意味ですか」

何がいいのか、全くわからない。

それに、鈴原さんが大切なのは私ではない。
私の立場と、小野寺という名だ。

「お嬢様のこと、ちゃんと大事にしてくれそう」

私が誰かのものにならないようにするなら、鈴原さんは偽りの愛でも言うだろう。

そんなもの、いらない。

私はそう思うが、笠木さんは違うのだろうか。私に、政略結婚をしてほしいのだろうか。

「……私が鈴原さんを選ぶと、ここには来れなくなりますよ」
「マジか。それは困るな」

真剣な表情で間髪入れずに答えたから、少しおかしくて笑ってしまった。

「困るのですか?」

笑いながら聞いたが、笠木さんがまっすぐ私を見つめてきたため、笑うのを止める。

「やりたいことを我慢するのは、好きじゃないからな」

笠木さんだ、と思った。

ずっと笠木さんと話していたが、あのころの笠木さんに出会えたような気がした。

「俺は、死ぬまでの時間をお嬢様と過ごしたい」

少し頬が赤いように見える。照れているのだろう。

私も、笠木さんと過ごしたい。そのためには、やらなければならないことがある。

覚悟を決め、深呼吸をする。

「少しだけ、時間をください」

笠木さんは眉尻を提げて首をひねった。

「父と話をしてきます」
「話?なんで」

笠木さんは知らなくていい。関係あるとしても、笠木さんが知るべきことではない。

「……笠木さんは、私がお嬢様でなくとも会いたいと思ってくださいますか?」

あのときの言葉は嘘だったと聞いた。それでも、二年忘れられなかった言葉は、そう簡単には覆らない。

お金持ちだから、相手をしていた。

「俺が会いたいのは、小野寺円香だ。お嬢様とか、関係ない」

力強く、私の目を見て言ってくれた。嘘ではないと、信じたい。

私の頬は緩む。

「では、次は小野寺円香として会いに来ますね」

自然と笑うことが出来た。

何が嬉しいのか、わからない。これから先、待ち構えているのはよくない未来だというのに、浮かれている。

「お嬢様!」

病室を出ようとした瞬間、笠木さんは叫んだ。