ゆっくりとドアに近付き、中の様子を覗く。鈴原さんがベッドのそばに立っている。

「単刀直入に言う。いくら渡せば円香さんの前から消えてくれる?」

鈴原さんの声は冷たかった。それに対して、笠木さんは乾いた笑いをする。

「心配しなくても、三ヶ月もしないうちに死ぬよ」

笠木さんがそのことを笑いながら言う度に、私は胸が張り裂けそうになる。

「違う。君には三ヶ月もあり、その間君は円香さんの心を奪い続ける」

ずっと、鈴原さんのことは好きではなかった。だが、初めて、彼の言葉に励まされたような気がした。

まだ、三ヶ月ある。笠木さんがいなくなってしまうことに打ちひしがれる三ヶ月より、やりたいことをやって楽しい三ヶ月にするほうがいいに決まっている。

「なにより、君はお金が必要なはずだ。君の病は、手術をすれば治るだろう?」

どうして鈴原さんがそんなことを知っているのだろう。そもそも、それは本当の話なのだろうか。

すると、笠木さんは乾いた笑いをする。

「金がなくて手術しないんじゃなくて、したくないからしねえんだよ」

声が出そうになり、手で口を塞ぐ。

「君は生きたくないのか?」

ずっと避けていた質問を、鈴原さんは躊躇せずに言った。

私はさらに集中して耳を傾ける。

「……あんたは、死ぬことの怖さを考えたことあるか?」

どうして笠木さんはそのようなことを聞くのだろう。

「は?」

鈴原さんも質問の意味がわからないからか、不機嫌そうに返した。笠木さんは小さく口角を上げる。

「まあ、まだ考えないよな。でも、俺は違う。病気がわかってから、今日死ぬかもしれないって思いながら生きてきた」

笠木さんは窓の外を眺める。後ろ頭しか見えなくて、どのような表情をしているのかわからない。

「俺は、やりたいことができずに死ぬのが怖い」

死について考えたことがなくて、笠木さんの話がどこか私には無関係のように感じてしまう。

「だから、後悔しないようにしてきた。やりたいことは全部やった。それができたのは、二十歳まで生きられるかわからないっていう制限があったからだ」

笠木さんがなにを伝えようとしているのか、全くわからない。わからないけれど、聞かなければならない気がした。

「俺は、今を生きてるんだよ。未来を、想像できない。あんたの質問に答えるなら……生きたいって、思わねーや」