◇
自宅に帰ると、一年前に来た新しいメイドの愛理さんが出迎えてくれている場所に鈴原さんが立っていた。
「こんにちは、円香さん。おかえりなさい」
目が笑っていない。ドアを閉めるが、そこから足が動かない。
「……ただいま戻りました」
まだ怒られているわけではないのに、体が強ばる。
「その様子だと、自分が何をしたのか、どうして僕がここにいるのか、心当たりがあるみたいですね」
鈴原さんはスマホを操作しながら私に近付く。そして、目の前で止まって画面を見せた。
それは、笠木さんが私に抱きついている写真だ。
やはり知られていた。
「どういうことか説明してもらえますか?」
彼に告白され、抱き締められたと言って、納得してもらえるのだろうか。
「どうして彼に会いに行ったのですか?」
瑞希ちゃんの言葉を思い出す。
笠木さんとのことを疑われたときの、言い訳。
「違います……私は、友人のお母様が入院していると聞いたので、お見舞いに行っただけで、笠木さんに会いに行ったわけでは……」
鈴原さんはまだ疑いの目を向けてくる。信じてくれと心の中で祈る。
「たしかに、そういう報告もありますね。ですが、この状況の説明にはなっていません」
その通りだ。
しかし笠木さんを悪者だと思わせる言葉しか浮かんでこない。
そんなことは言えなくて、私は逃げたい気持ちから後ろに下がる。
そのとき、タイミング悪くお父様が帰ってきた。
前には鈴原さん、後ろにお父様。逃げ場がない。
「お邪魔してます、小野寺さん」
鈴原さんは笑顔でお父様に挨拶をする。私はおかえりなさいと言いたくても、音にならなかった。
「円香」
お父様の低い声が私の体を縛り付ける。
「鈴原君に聞いた。あの男と関わるなと言ったことを忘れたのか?」
硬い動きで首を横に振る。
「偶然だとしても、会ったことは許さない。しばらく部屋から出るな」
納得いかなかった。お父様との約束を破ったのは悪いと思う。
だが、ここまで上から押さえつけられるのは、納得いかない。
「……どうしてお父様は……そこまで笠木さんのことを嫌うのですか……」
声が震えていた。
「円香に悪影響しか与えないからだ。それになにより、円香には鈴原君がいる」
悪影響ではなかったし、鈴原さんはお父様が決めた相手だ。
「笠木さんは……お父様が思っているような人ではありません」
すると、空気が変わった。それは二年前に感じた空気と似ていた。
また、理不尽な力に押さえつけられる。
「円香さんはまだ彼が好きだということですね」
鈴原さんがそう言うと、お父様はため息をついた。
私は重い空気に耐えられなくなり、家を飛び出した。
自宅に帰ると、一年前に来た新しいメイドの愛理さんが出迎えてくれている場所に鈴原さんが立っていた。
「こんにちは、円香さん。おかえりなさい」
目が笑っていない。ドアを閉めるが、そこから足が動かない。
「……ただいま戻りました」
まだ怒られているわけではないのに、体が強ばる。
「その様子だと、自分が何をしたのか、どうして僕がここにいるのか、心当たりがあるみたいですね」
鈴原さんはスマホを操作しながら私に近付く。そして、目の前で止まって画面を見せた。
それは、笠木さんが私に抱きついている写真だ。
やはり知られていた。
「どういうことか説明してもらえますか?」
彼に告白され、抱き締められたと言って、納得してもらえるのだろうか。
「どうして彼に会いに行ったのですか?」
瑞希ちゃんの言葉を思い出す。
笠木さんとのことを疑われたときの、言い訳。
「違います……私は、友人のお母様が入院していると聞いたので、お見舞いに行っただけで、笠木さんに会いに行ったわけでは……」
鈴原さんはまだ疑いの目を向けてくる。信じてくれと心の中で祈る。
「たしかに、そういう報告もありますね。ですが、この状況の説明にはなっていません」
その通りだ。
しかし笠木さんを悪者だと思わせる言葉しか浮かんでこない。
そんなことは言えなくて、私は逃げたい気持ちから後ろに下がる。
そのとき、タイミング悪くお父様が帰ってきた。
前には鈴原さん、後ろにお父様。逃げ場がない。
「お邪魔してます、小野寺さん」
鈴原さんは笑顔でお父様に挨拶をする。私はおかえりなさいと言いたくても、音にならなかった。
「円香」
お父様の低い声が私の体を縛り付ける。
「鈴原君に聞いた。あの男と関わるなと言ったことを忘れたのか?」
硬い動きで首を横に振る。
「偶然だとしても、会ったことは許さない。しばらく部屋から出るな」
納得いかなかった。お父様との約束を破ったのは悪いと思う。
だが、ここまで上から押さえつけられるのは、納得いかない。
「……どうしてお父様は……そこまで笠木さんのことを嫌うのですか……」
声が震えていた。
「円香に悪影響しか与えないからだ。それになにより、円香には鈴原君がいる」
悪影響ではなかったし、鈴原さんはお父様が決めた相手だ。
「笠木さんは……お父様が思っているような人ではありません」
すると、空気が変わった。それは二年前に感じた空気と似ていた。
また、理不尽な力に押さえつけられる。
「円香さんはまだ彼が好きだということですね」
鈴原さんがそう言うと、お父様はため息をついた。
私は重い空気に耐えられなくなり、家を飛び出した。