自宅に帰ると、一年前に来た新しいメイドの愛理(あいり)さんが出迎えてくれている場所に鈴原さんが立っていた。

「こんにちは、円香さん。おかえりなさい」

目が笑っていない。ドアを閉めるが、そこから足が動かない。

「……ただいま戻りました」

まだ怒られているわけではないのに、体が強ばる。

「その様子だと、自分が何をしたのか、どうして僕がここにいるのか、心当たりがあるみたいですね」

鈴原さんはスマホを操作しながら私に近付く。そして、目の前で止まって画面を見せた。

それは、笠木さんが私に抱きついている写真だ。

やはり知られていた。

「どういうことか説明してもらえますか?」

彼に告白され、抱き締められたと言って、納得してもらえるのだろうか。

「どうして彼に会いに行ったのですか?」

瑞希ちゃんの言葉を思い出す。

笠木さんとのことを疑われたときの、言い訳。

「違います……私は、友人のお母様が入院していると聞いたので、お見舞いに行っただけで、笠木さんに会いに行ったわけでは……」

鈴原さんはまだ疑いの目を向けてくる。信じてくれと心の中で祈る。

「たしかに、そういう報告もありますね。ですが、この状況の説明にはなっていません」

その通りだ。

しかし笠木さんを悪者だと思わせる言葉しか浮かんでこない。

そんなことは言えなくて、私は逃げたい気持ちから後ろに下がる。

そのとき、タイミング悪くお父様が帰ってきた。

前には鈴原さん、後ろにお父様。逃げ場がない。

「お邪魔してます、小野寺さん」

鈴原さんは笑顔でお父様に挨拶をする。私はおかえりなさいと言いたくても、音にならなかった。

「円香」

お父様の低い声が私の体を縛り付ける。

「鈴原君に聞いた。あの男と関わるなと言ったことを忘れたのか?」

硬い動きで首を横に振る。

「偶然だとしても、会ったことは許さない。しばらく部屋から出るな」

納得いかなかった。お父様との約束を破ったのは悪いと思う。

だが、ここまで上から押さえつけられるのは、納得いかない。

「……どうしてお父様は……そこまで笠木さんのことを嫌うのですか……」

声が震えていた。

「円香に悪影響しか与えないからだ。それになにより、円香には鈴原君がいる」

悪影響ではなかったし、鈴原さんはお父様が決めた相手だ。

「笠木さんは……お父様が思っているような人ではありません」

すると、空気が変わった。それは二年前に感じた空気と似ていた。

また、理不尽な力に押さえつけられる。

「円香さんはまだ彼が好きだということですね」

鈴原さんがそう言うと、お父様はため息をついた。

私は重い空気に耐えられなくなり、家を飛び出した。