「玲生……!」
笠木さんはお母様に抱きつかれる。私はどうすればいいのかわからないまま、車椅子から手を離す。
「驚かせてごめんな、お嬢様。ありがとう」
笠木さんは抱き着かれたまま、私を見た。
「いえ……」
私は頭の中を整理しきれず、そう答えることしかできなかった。
「……お嬢様?」
笠木さんのお母様は笠木さんから離れ、私の顔を凝視してくる。私は一、二歩後ろに下がる。
「高校のとき転校してきた、お嬢様?玲生のお見舞いに来てくれたの?」
お母様は構わず私に近付いてくる。
私のことが知られていると驚く暇もない。
「母さん、落ち着いて。お嬢様は友達の親の見舞いに来ただけだから」
笠木さんがお母様の腕を引っ張ってくれるが、私たちの間の距離は開かない。そしてお母様は笠木さんの手から逃げ、私の腕を引いて病室を出た。
「母さん!?」
「すぐ戻るから!ちょっとお嬢様と話があるの!」
お母様はそう言うと、私を一番近くの曲がり角まで連れ出した。
「玲生に会いに来てくれないかな!?」
立ち止まったと同時に、お願いされた。
単刀直入すぎて、頭が追いつかない。
「えっと……」
「お嬢様って、小野寺円香ちゃんだよね?玲生が会いたいって名前書いてた子なんだよね?円香ちゃんが来てくれたら、玲生も元気になると思うの」
私が言葉を挟む余裕もなく話される。
「お願い、円香ちゃん。玲生に少しでも長く生きたいって思ってほしいの」
私が何も言わないでいることを、来たくないと捉えたのか、さっきまでの勢いが嘘のように弱った声で言った。
私だってお母様と同じように思っている。私にできることがあるのならば、協力したい。
なにより、私がもっと笠木さんに会いたい。
だが、できない。
「……ごめんなさい……」
初めて向き合ったお母様は、とても疲れた顔をしている。少しずつ目が潤んでいく。
「どうして……?玲生のこと、嫌い……?」
そんなわけない。むしろ、逆だ。
「……無理言ってごめんね」
私が無言でいたため、私が笠木さんを嫌いだと思ったらしい。
お母様は笑えていなかった。それは笠木さんのつらそうなときの笑顔に似ていて、胸が締め付けられる。
「でも、ときどきでいいから、来てくれないかな?」
わがままを言ってごめんなさい、と言っているようにも聞こえた。
「……はい」
私はそのお願いを断ることはできなかった。
笠木さんはお母様に抱きつかれる。私はどうすればいいのかわからないまま、車椅子から手を離す。
「驚かせてごめんな、お嬢様。ありがとう」
笠木さんは抱き着かれたまま、私を見た。
「いえ……」
私は頭の中を整理しきれず、そう答えることしかできなかった。
「……お嬢様?」
笠木さんのお母様は笠木さんから離れ、私の顔を凝視してくる。私は一、二歩後ろに下がる。
「高校のとき転校してきた、お嬢様?玲生のお見舞いに来てくれたの?」
お母様は構わず私に近付いてくる。
私のことが知られていると驚く暇もない。
「母さん、落ち着いて。お嬢様は友達の親の見舞いに来ただけだから」
笠木さんがお母様の腕を引っ張ってくれるが、私たちの間の距離は開かない。そしてお母様は笠木さんの手から逃げ、私の腕を引いて病室を出た。
「母さん!?」
「すぐ戻るから!ちょっとお嬢様と話があるの!」
お母様はそう言うと、私を一番近くの曲がり角まで連れ出した。
「玲生に会いに来てくれないかな!?」
立ち止まったと同時に、お願いされた。
単刀直入すぎて、頭が追いつかない。
「えっと……」
「お嬢様って、小野寺円香ちゃんだよね?玲生が会いたいって名前書いてた子なんだよね?円香ちゃんが来てくれたら、玲生も元気になると思うの」
私が言葉を挟む余裕もなく話される。
「お願い、円香ちゃん。玲生に少しでも長く生きたいって思ってほしいの」
私が何も言わないでいることを、来たくないと捉えたのか、さっきまでの勢いが嘘のように弱った声で言った。
私だってお母様と同じように思っている。私にできることがあるのならば、協力したい。
なにより、私がもっと笠木さんに会いたい。
だが、できない。
「……ごめんなさい……」
初めて向き合ったお母様は、とても疲れた顔をしている。少しずつ目が潤んでいく。
「どうして……?玲生のこと、嫌い……?」
そんなわけない。むしろ、逆だ。
「……無理言ってごめんね」
私が無言でいたため、私が笠木さんを嫌いだと思ったらしい。
お母様は笑えていなかった。それは笠木さんのつらそうなときの笑顔に似ていて、胸が締め付けられる。
「でも、ときどきでいいから、来てくれないかな?」
わがままを言ってごめんなさい、と言っているようにも聞こえた。
「……はい」
私はそのお願いを断ることはできなかった。