だが、それができない立場であることをすぐに思い出した。

「お嬢様?」

私が続きを言わないせいで、笠木さんは不思議そうな顔をしている。

気持ちを伝えることはできないが、あのときの言葉が嘘だったということは話してもいいのではないだろうか。

「えっと……あの日……笠木さんを利用していたと言ったのは」
「嘘だろ?わかってるよ」

私が勇気を出して告白しようとしたのに、笠木さんは続きをさらりと言った。

「どうして……」
「お嬢様は全部顔に出るんだよ。バイトしたときも、俺に嘘をついたときも、パーティーのときも」

自分がそれほど子供のようなことをしていたのかと思うと、恥ずかしい。

「……パーティー?」

笠木さんはしまったというように口を塞いだ。

「どういうことですか、笠木さん」

問いただすと、笠木さんはロボットのような動きで目を逸らした。

「どうって……俺がお嬢様の参加したパーティーのバイトをしたときにお嬢様を見かけたってだけ」

見かけただけで、私が嘘をついているかどうかなんてわかるだろうか。

きっと、私たちは話したはずだ。

だが思い返しても、笠木さんをパーティーで見かけた記憶がない。どのパーティーも退屈で帰りたいと思っていたから、周りを見ていなかったせいだろう。

笠木さんは本当に、いろいろなことを経験しているらしい。

「笠木さんは、どうしてそんなにバイトをされていたのですか?」

聞いてすぐ、後悔した。純粋に疑問に思ったことだったが、よく考えてみればわかることだった。

「母さんは俺の治療費とか入院費のために一生懸命働いてくれてる。その金で自由なことはできないだろ。だから、やりたいことがあったら、自分で稼ぐようにしてた。それだけだよ」

笠木さんの声のトーンが低くなったように感じる。

やはり、聞かなければよかった。

「あ、そろそろ俺の」
「しーちゃん、玲生は!?」

笠木さんが指さした先から、慌てた声が聞こえてきた。笠木さんの名前が聞こえてきたということは、あそこが笠木さんの病室なのだろう。

笠木さんは小さくため息をつく。

「一人で歩き回るの、控えないとかな……」

顔は見えていない。だが、笠木さんが落ち込んでいることは手に取るようにわかった。

「お嬢様、早く病室に連れてって」

私は言われるがまま、笠木さんを押して病室に入る。

「落ち着いて、恵実さん。玲生くんはもうすぐ帰ってくるから」

汐里先生は恵実という女性にしがみつかれていて、その女性の両肩を抱いている。

その状況に驚いてしまい、私は出入り口で止まってしまった。

「しーちゃんと一緒じゃないってことは、玲生、一人なんだよね?倒れてたらどうしよう……」

後ろ姿しか見えないが、怯えているのがわかる。

「ここにいるから大丈夫だよ、母さん」

笠木さんが声をかけると、女性は振り返った。泣きそうな、だけど安心した顔をしている。

……母さん?