今聞く気はなかったのに、思わず口から出てしまった。

顔を上げた笠木さんは、驚いている。しかし、表情はあっという間に緩まった。

「お嬢様、そんなこと聞きたくて来たのか?」

笠木さんは笑いながら言う。

笑いごとなのだろうか。それに、私にとってはそんなことではない。

「……本当だよ」

真剣な表情で言うのだから、嘘ではないのだろう。

言葉が出ない。

「でも、これでも長く生きてるほうなんだ。もともと、二年前に死にかけたし」

そんなさらっと言うようなことではない。

というか……

「二年前って……」
「お嬢様とさよならした日」

笠木さんは遠くを見つめる。

あの日のことを、忘れるはずなかった。

あの日私は、どうしても笠木さんにはお別れを言いたくて、お昼休みに学校を抜け出した。

嘘をついて一生会わないつもりで行ったのに、笠木さんに会えたことが嬉しくて、私は思いっきり抱きついた。

そして突き放したのは私ではなく、笠木さんだった。

これでよかったのだと自分に言い聞かせたが、悲しい気持ちは消えず、しばらく枕を濡らした。

「あのとき手術して、今なんとか生きてるけど……まあ、ご存知の通り残りわずかな命ってとこかな」

笠木さんはまだ笑っている。

「……どうして、そんなに受け入れているのですか。笠木さんは、生きたくないのですか」

笠木さんが笑顔でいればいるほど、いつ死んでもいいと思っているのではないかと感じ、無性に腹が立った。

「んー……どうだろう。早い段階で二十歳まで生きられないってわかって、ずっと後悔しないように、やりたいことはすぐに行動に移してきたから、特に未練はない」

ああ、やっぱり。この人は、死のうとしている。

「……て、言えたら最高だけどな」
「え……?」

予想外の言葉に、間抜けな声が出てしまった。

「後悔のない人生にするって難しいよ。どうしても、あのときああしていればって思ってしまう」

笠木さんはまた、私が泣きたくなるような、胸を締め付けられる笑顔を浮かべた。

「俺は……病気じゃなかったら、小野寺円香がお嬢様じゃなかったら……自分のポリシーを曲げずに済んだのにって思ってるよ」

笠木さんの言っている意味がわからず、首を傾げる。だけど、笠木さんはそれ以上話してくれない。

話してほしいと目で訴えると、笠木さんは少し嫌そうに、だけどどこか恥ずかしそうにした。

「お嬢様……察しが悪いな?ここに来て椿さんと汐里さんと話したんだろ?」

それはつまり、笠木さんが私を好きということだろうか。

何度もそうではないかと考えた。そしてそのたび、笠木さんは私のことは忘れていると自分に言い聞かせてきた。

「……笠木さんの態度のせいですよ」

私は頬を膨らませ、そっぽを向く。