なんて落ち込んでいたら、由依ちゃんが笠木さんを追いかけた。

笠木さんはまあり遠くに行っていなかったらしく、二人はすぐに戻ってきた。

「どうして逃げたの……?」
「……なんでここにいるんだよ」

由依ちゃんの質問に答えず、怒っているように言った。由依ちゃんは相変わらず笠木さんが苦手なのか、少し距離をとった。

「瑞希のお母さんのお見舞いに……」
「瑞希……ああ、あいつか」

笠木さんの声のトーンは変わらない。由依ちゃんはすっかり怯えてしまい、また逃げられると追うことはできないだろう。

気まずい空気が流れる。しかし笠木さんは笑顔を作った。

「……椿さん、元気そうなら俺、もう行くよ」

また帰ろうとする。私のほうを見ることもない。

「あ、あの……私が、帰ります……」

震える声だった。

これ以上無視をされると、心が折れる。

私は下を向き、笠木さんを見ないようにして足早に病室から逃げ出した。しかし、出た途端に人にぶつかってしまった。

「おっと、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ……飛び出してしまい、すみません……」

謝罪の言葉を並べ、帰ろうとしたが、ぶつかった人に手首を掴まれた。

何事かと振り向くと、そこには汐里先生がいた。

「やっぱり小野寺さんだ。どうしてここに?」

笑って声をかけてくれる先生は、あのころと変わりない。

「瑞希ちゃんの、東雲さんのお母様のお見舞いに……」

お見舞いに来たが、笠木さんの態度が想像以上にダメージがあり、帰る途中だ。

「……玲生くんに会った?」

汐里先生の声は小さかった。心配してくれている目に、抑えていた気持ちが溢れ出る。

私は泣きながら頷いた。

汐里先生はそんな私を連れて、待合室に行った。

「はい、どうぞ」

自販機で買ったお茶を渡される。

「ありがとうございます」
「いいえ。お嬢様の口には合わないかもしれないけどね」

先生は笑いながら私の隣に座る。だけど、すぐに笑顔が消えた。

「小野寺さんが泣いたってことは、玲生くん、冷たく接したのかな?」

答えられない。はい、そうですと言いたくなかった。

「……やっぱりか。もう、頑固なんだから」

先生は大きくため息をついた。

先生が何を言おうとしているのかわからずにいたら、先生はポケットから丸められた紙を取り出した。

それを広げ、渡してくれる。

『小野寺円香に会いたい』

殴り書きだったが、かろうじて読むことはできた。

「これは……?」