◇
週末、由依ちゃんと待ち合わせをして病院に向かった。
瑞希ちゃんは仕事があるということで、お母様の病室番号は聞いている。
由依ちゃんはこの病院に来たことがあるのか、あまり迷わず病室にたどり着いた。
そこは四人部屋だった。
「あれ、由依ちゃん?久しぶりだねー!元気だった?」
中に入ってすぐ、部屋の右奥から由依ちゃんに声をかける人がいた。右足にギプスを巻いているのが出入り口からでも見える。
「お久しぶりです、おばさん。瑞希に骨折したって聞きましたよ。大丈夫ですか?」
それが瑞希ちゃんのお母様だったらしく、由依ちゃんは笑顔で答えた。私は由依ちゃんの後ろを、隠れるように歩く。
「階段から転げ落ちてねー。私は平気なんだけど、瑞希に、家に誰もいないのにどうする気?って怒られちゃって。だから、ある程度治るまで入院することにしたの」
笑って話されると、どう反応すればいいのか分からない。
「ところで、そちらは?」
お母様の視線が私に向いた。
「小野寺円香です」
「私たちの友達。円香ちゃんもおばさんのこと心配して来てくれたんだよ」
由依ちゃんは私の背中を押し、ベッドに近付けた。
「そうなんだ。ありがとうね」
お礼を言われ、私は戸惑いながら頭を下げる。
「いやー、こんなに礼儀正しい子が瑞希の友達だなんて、ちょっと信じられない」
お母様は冗談ぽく笑って言った。
「円香ちゃんはお嬢様だからね。礼儀正しいよ」
由依ちゃんが教えると、お母様は目を丸くした。
「お嬢様?……あ!玲生くんが好きな人も、お嬢様って言ってた!同一人物なのかな?」
お母様はなんだか楽しそうに話しているが、その名に私も由依ちゃんも固まる。
「玲生って……笠木玲生?」
由依ちゃんは恐る恐る質問をした。
「そうそう!知り合いなの?」
「知り合いというか……高校の同級生」
由依ちゃんは少し悩み、そう答えた。
由依ちゃんからすれば、笠木さんはただの同級生だから、その表現が正しいだろう。
「じゃあ、やっぱりあなたが?」
どこまでも私たちとお母様とのテンションが合致しない。
それに、あなたが?と言われても、どう言えばいいのかわからない。
そもそも、笠木さんが誰を好きでいるかなんて知らないし、知りたくもない。
「椿さん、今日は賑やかですね。お客さんですか?」
答えに迷っていたら、男性の声がした。出入り口を見ると、懐かしい人が立っている。
その人は私の顔を見て立ち止まった。
「玲生くん、こんにちは。娘の友達がお見舞いに来てくれたの」
笠木さんは硬い笑顔を作り、踵を返した。
「玲生くん!?」
お母様が呼んでも、笠木さんは戻ってこない。
私の顔を見て逃げたということは、やはり私には会いたくないということで。
お母様が言っていた、笠木さんが私を好きというのは、きっと勘違いだ。
週末、由依ちゃんと待ち合わせをして病院に向かった。
瑞希ちゃんは仕事があるということで、お母様の病室番号は聞いている。
由依ちゃんはこの病院に来たことがあるのか、あまり迷わず病室にたどり着いた。
そこは四人部屋だった。
「あれ、由依ちゃん?久しぶりだねー!元気だった?」
中に入ってすぐ、部屋の右奥から由依ちゃんに声をかける人がいた。右足にギプスを巻いているのが出入り口からでも見える。
「お久しぶりです、おばさん。瑞希に骨折したって聞きましたよ。大丈夫ですか?」
それが瑞希ちゃんのお母様だったらしく、由依ちゃんは笑顔で答えた。私は由依ちゃんの後ろを、隠れるように歩く。
「階段から転げ落ちてねー。私は平気なんだけど、瑞希に、家に誰もいないのにどうする気?って怒られちゃって。だから、ある程度治るまで入院することにしたの」
笑って話されると、どう反応すればいいのか分からない。
「ところで、そちらは?」
お母様の視線が私に向いた。
「小野寺円香です」
「私たちの友達。円香ちゃんもおばさんのこと心配して来てくれたんだよ」
由依ちゃんは私の背中を押し、ベッドに近付けた。
「そうなんだ。ありがとうね」
お礼を言われ、私は戸惑いながら頭を下げる。
「いやー、こんなに礼儀正しい子が瑞希の友達だなんて、ちょっと信じられない」
お母様は冗談ぽく笑って言った。
「円香ちゃんはお嬢様だからね。礼儀正しいよ」
由依ちゃんが教えると、お母様は目を丸くした。
「お嬢様?……あ!玲生くんが好きな人も、お嬢様って言ってた!同一人物なのかな?」
お母様はなんだか楽しそうに話しているが、その名に私も由依ちゃんも固まる。
「玲生って……笠木玲生?」
由依ちゃんは恐る恐る質問をした。
「そうそう!知り合いなの?」
「知り合いというか……高校の同級生」
由依ちゃんは少し悩み、そう答えた。
由依ちゃんからすれば、笠木さんはただの同級生だから、その表現が正しいだろう。
「じゃあ、やっぱりあなたが?」
どこまでも私たちとお母様とのテンションが合致しない。
それに、あなたが?と言われても、どう言えばいいのかわからない。
そもそも、笠木さんが誰を好きでいるかなんて知らないし、知りたくもない。
「椿さん、今日は賑やかですね。お客さんですか?」
答えに迷っていたら、男性の声がした。出入り口を見ると、懐かしい人が立っている。
その人は私の顔を見て立ち止まった。
「玲生くん、こんにちは。娘の友達がお見舞いに来てくれたの」
笠木さんは硬い笑顔を作り、踵を返した。
「玲生くん!?」
お母様が呼んでも、笠木さんは戻ってこない。
私の顔を見て逃げたということは、やはり私には会いたくないということで。
お母様が言っていた、笠木さんが私を好きというのは、きっと勘違いだ。