鈴原さんとの婚約は解消されず、そのままずるずると関係が続いているという状態だ。鈴原さんには申しわけないが、一ミリも気持ちは動いていない。

「なにそれ」

瑞希ちゃんが文句を言いたそうにするが、やはりそこはわかりあえないことなのだろう。

「……ねえ、円香ちゃん。私たちのことはなにも言われなかったの?」

由依ちゃんの勘は鋭かった。言ってきたのは鈴原さんだが、お父様もよく思っていなかっただろう。

「その無言は言われたんだね」

由依ちゃんは苦笑した。

どうして私は思ったことがすぐに顔に出てしまうのだろう。

「じゃあ、今めちゃくちゃまずい状況なんじゃ……」

瑞希ちゃんは不安そうな声を出す。

「いえ、二人のことは説得して認めてもらいました。大切な友人を失いたくなかったので」

笠木さんに会えなくなって、その上二人も離れていくとなると、きっと私は耐えられない。二人に出会う前以上に心が壊れてしまっていたかもしれない。

それだけは、避けたかった。

だから、もうお父様に迷惑をかけるような行動をしないことを条件に、許してもらった。

「笠木くんを友人って言うことは出来なかったの……?」
「言いましたが、納得してもらえませんでした」

誰も何も言わず、ほかの客の声がよく聞こえる。そのとき、瑞希ちゃんが注文した唐揚げが運ばれてきた。

「……えんは、笠木に会いたい?会いたくない?」

瑞希ちゃんは唐揚げの上にレモンを絞る。

「ですから……」
「えんの気持ちを聞かせてよ。親のこととか関係なく、えんがどうしたいか」

瑞希ちゃんは唐揚げを頬張る。熱かったらしく、水を流し込んでいる。

お父様関係なく、私がどうしたいか。そんなの、考えるまでもない。

「……笠木さんに、会いたい……」

瑞希ちゃんは唐揚げを飲み込むと、満足そうに笑った。

「じゃあ、協力してあげる」

いたずらを企む子供のように、片方の口角だけを上げた。

「協力って、どうするの?」

私が聞くより先に、由依ちゃんが聞いた。

「君たち、私の話聞いてた?今、私のお母さんは入院してるんだよ。笠木と同じ病院に」

瑞希ちゃんはわざわざ最後の一文を強調するように言う。

私と由依ちゃんは顔を見合わせる。きっと、同じことを思っているはずだ。

「私のお母さんのお見舞いに行くふりして、笠木に会えばいい」

瑞希ちゃんは予想通りの提案をした。

「ふりではなく、きちんと瑞希ちゃんのお母様のお見舞いにも行きますよ」

入院していると知っていながら、行かない選択肢はない。

「ついででいいんだよ。元気なんだから」
「じゃあ、私も行こうかな。瑞希のお母さんに久々に会いたいし」
「だから、ただの骨折なんだってば……」

瑞希ちゃんは嫌そうにしているけれど、それでも行かないとはならなかった。

そしてラーメンを食べ終え、私たちは解散した。