瑞希ちゃんはおしぼりで手を吹き、水を喉に通した。

「さっき話題になってた、笠木のこと」

瑞希ちゃんは真剣な面持ちでいる。

「笠木、今入院してるみたいで……」

もう一度水を飲み、私のほうを向いた。泣きそうな、だけど困っているような表情は初めて見る。

「……余命三ヶ月だって」

頭が真っ白になった。

「ちょ、ちょっと瑞希、変なこと急に言わないでよ……」

由依ちゃんも理解が追いついていないようで、戸惑っている。

「でも、本当のことなんだよ!」

瑞希ちゃんは苦しそうに叫んだ。知り合いがこれほど早くに死ぬかもしれないという事実を受け止められないのは、皆同じなのかもしれない。

笠木さんが、余命三ヶ月?病気ではないというのは、嘘だったということ?

「私のお母さんが骨折で入院してて、お見舞いに行ったときに笠木を見かけた。それで……笠木と先生の話が聞こえて……」

それが、余命三ヶ月という内容だったということか。

「えんには言わないとって思った……だってほら、えん、笠木のこと……」

瑞希ちゃんは最後まで言い切らなかった。

大きく深呼吸をする。

「笠木さんとは、無関係ですよ。彼には、会いに行きません」

瑞希ちゃんも由依ちゃんも、私の顔を凝視している。

「円香ちゃん、どうしてそんなに冷たいこと言うの……?」
「あんなに仲良かったじゃん!無関係とか、ありえない」

笠木さんを目の敵にしていた瑞希ちゃんのセリフとは思えない。

会いに行きたいに決まっている。だけど、今の私には自由がない。

私が会いに行って、もし笠木さんを苦しめてしまったら。

そう思うと、気安く行きたいなどと言えない。

「……円香ちゃんのお家の事情?」

先ほど私の隠しごとを知った由依ちゃんだからこその質問だ。

「……私がまた転校したのは、笠木さんのことを父に知られ、怒られたからです。父に逆らうと、きっと、笠木さんによくないことをする」

瑞希ちゃんは理解不能という顔をしている。そんな瑞希ちゃんに、由依ちゃんがこっそり私のことを教えた。

瑞希ちゃんは驚いていたが、すぐに納得したらしい。

「よくないことって?」
「わかりません……ただ、私たちが会えなくなるようなことをするのではないかと」

病人である笠木さんの命を奪うなどということはしないはず。

するとすれば、病院の変更くらいか。だが、残り三ヶ月と言われている笠木さんにとって、遠い場所に移されるのは、体の負担になるだろう。

「娘の恋くらい、応援できないのか……」

瑞希ちゃんは呆れたように呟いた。

「私には許嫁がいますので、応援はされませんよ」