あれから、二年の月日が流れた。

「円香ちゃん、次の時間空いてる?」

私は由依ちゃんと同じ大学に通っていた。

一限が終わって図書室に行こうとしていたところ、偶然すれ違った。

「はい、空いていますよ」
「よかった。瑞希がね、円香ちゃんに話があるんだって」

瑞希ちゃんは高校卒業後、就職したと聞いた。会うのは二年ぶりだ。

「まあ、久々にラーメンでも行こうって、違うことで盛り上がってるみたいだけどね」

由依ちゃんはスマホの画面を見せてくれる。そこには瑞希ちゃんとのメッセージのやり取りが表示されている。

「私も次空いてるから、一緒に行こ」

そして私たちは瑞希ちゃんが指定したラーメン店に向かった。瑞希ちゃんはまだ来ていなかったらしく、四人席に座って瑞希ちゃんを待つ。

「そうだ、聞きたいことがあったんだった」

由依ちゃんはメニュー表から顔を上げる。

「円香ちゃんって本物のお嬢様なの?」

予想外の質問で、水を飲んでいた私はむせてしまった。

「どうして……?」
「いろんな人が言ってたんだよね。小野寺円香は小野寺のグループ?かなにかの社長令嬢だって」

大学ともなれば、私のことを知っている人はいるだろうと思っていたが、まさかそれが由依ちゃんの耳に入るとは思っていなかった。

「本当、なんだ?」

逃げられないと思い、頷く。

「どうして隠してたの?」
「……由依ちゃんたちとは、金持ちの娘としてではなく、小野寺円香として接したかったので……」

本当は、誰も私のことを知らない場所に逃げたかっただけ。

そこで由依ちゃんたちに出会って、私のことを知っても態度が変わることはないとわかっていたが、なんとなく、知られたくなかった。

だから、言うタイミングを逃していたのだ。

「……そっか。でも、あの人は円香ちゃんのこと、知ってたの?」

由依ちゃんの言うあの人とは、私が忘れようとしたけれど、忘れられない人だろう。

「あの人って、笠木玲生?」

後ろで急に声がし、振り向くと、瑞希ちゃんが立っていた。お昼休憩で来たのか、制服を着ている。

「瑞希ちゃん、お久しぶりです」
「久しぶり」

瑞希ちゃんはそのまま私の隣に座る。

「瑞希、その格好でラーメンって大丈夫なの?」
「だよね。着替えて来ればよかったなって思ってる」

そういう理由で、瑞希ちゃんは唐揚げとチャーハンと、ラーメン以外のものを頼んだ。そして、私は豚骨ラーメン、由依ちゃんは塩ラーメンを注文した。

「それで瑞希ちゃん、お話したことというのは?」