◆
それは突然のことだった。
お嬢様の友達が言ってた通り、バイト先の喫茶店は人気が出てきたようで、昼時はかなり忙しかった。
そのせいで、薬を飲む暇がなかった。
結果、バイト中に倒れてしまった。
いつものように病院で目を覚ます。
「おはよ。店長さんたちには適当に言って帰ってもらったよ」
担当医の中條先生が教えてくれた。誰にも知られたくないと言っていたから、そうしてくれたのだろう。
「……ありがとう」
「別に、大したことじゃない」
すると、先生から笑顔が消える。
「……玲生」
この瞬間は、いつも緊張する。先生が真剣な表情をしたとき、いいことを言われることは少ない。
「もう……バイトは厳しいんじゃないか?」
否定できなかった。
母さんと無理をしない約束をした。意地を張って、できるとは言えなかった。
「俺……限界?」
薬を飲む時間がズレたことは、何度かあった。そのときは、少ししんどくなったくらいで、今回みたいに倒れることはなかった。
「精密検査しないことにははっきり言えないけど……なんとなく、自分でわかってるだろ」
「……まあ」
実際、今体を起こすことが出来ていない。かなり体が重い。
「ねえ、先生」
天井を見つめていたけど、次第に涙で見えなくなる。
まだやりたいことがいっぱいあるのに。お嬢様への気持ちに気付いて、もっと一緒にいたかったのに。
「一日だけ……一日だけでいい、から……外出許可ください……」
もう入院しなければいけないことわかっている。
だけど、このまま黙ってお嬢様と別れるのは嫌だ。
「検査の結果次第だが……許せるのは、一日だけだからな」
中條先生はそんな俺のわがままを聞いてくれた。
「神……」
中條先生は俺の額に拳を置く。
「バーカ」
優しい声だった。
それからすぐあと、母さんが泣きながら病室に来た。
「……母さん、俺、もうバイトは辞めるし、学校行かない」
自分なりに覚悟を決めて伝えると、母さんは目を見開いた。
「それって……」
「治療に専念する。もう、限界ぽい」
酷い愛想笑いだと自分でも思った。
母さんは大粒の涙を零す。
必死に手を伸ばし、母さんの頬に触れ、指で涙を拭った。母さんは手を重ねてきて、さらに泣いてしまった。
◇
翌朝、看護師に手伝ってもらいながら制服を着た。結構準備に時間がかかり、病院を出たときには一限が終わろうとしていた。
重い体を引きずる思いで学校に向かう。
着いたのは、四限の途中だった。二時間もかけて登校したのは、初めてだ。
教室に行く余裕なんて当然なく、俺はまっすぐ保健室に向かう。
「ちょっと、玲生くん!?ものすごく顔色悪いよ!?」
汐里さんに支えられながらベッドに寝たことで、ようやく落ち着いた。
汐里さんはベッドの隣にある丸椅子に座る。
それは突然のことだった。
お嬢様の友達が言ってた通り、バイト先の喫茶店は人気が出てきたようで、昼時はかなり忙しかった。
そのせいで、薬を飲む暇がなかった。
結果、バイト中に倒れてしまった。
いつものように病院で目を覚ます。
「おはよ。店長さんたちには適当に言って帰ってもらったよ」
担当医の中條先生が教えてくれた。誰にも知られたくないと言っていたから、そうしてくれたのだろう。
「……ありがとう」
「別に、大したことじゃない」
すると、先生から笑顔が消える。
「……玲生」
この瞬間は、いつも緊張する。先生が真剣な表情をしたとき、いいことを言われることは少ない。
「もう……バイトは厳しいんじゃないか?」
否定できなかった。
母さんと無理をしない約束をした。意地を張って、できるとは言えなかった。
「俺……限界?」
薬を飲む時間がズレたことは、何度かあった。そのときは、少ししんどくなったくらいで、今回みたいに倒れることはなかった。
「精密検査しないことにははっきり言えないけど……なんとなく、自分でわかってるだろ」
「……まあ」
実際、今体を起こすことが出来ていない。かなり体が重い。
「ねえ、先生」
天井を見つめていたけど、次第に涙で見えなくなる。
まだやりたいことがいっぱいあるのに。お嬢様への気持ちに気付いて、もっと一緒にいたかったのに。
「一日だけ……一日だけでいい、から……外出許可ください……」
もう入院しなければいけないことわかっている。
だけど、このまま黙ってお嬢様と別れるのは嫌だ。
「検査の結果次第だが……許せるのは、一日だけだからな」
中條先生はそんな俺のわがままを聞いてくれた。
「神……」
中條先生は俺の額に拳を置く。
「バーカ」
優しい声だった。
それからすぐあと、母さんが泣きながら病室に来た。
「……母さん、俺、もうバイトは辞めるし、学校行かない」
自分なりに覚悟を決めて伝えると、母さんは目を見開いた。
「それって……」
「治療に専念する。もう、限界ぽい」
酷い愛想笑いだと自分でも思った。
母さんは大粒の涙を零す。
必死に手を伸ばし、母さんの頬に触れ、指で涙を拭った。母さんは手を重ねてきて、さらに泣いてしまった。
◇
翌朝、看護師に手伝ってもらいながら制服を着た。結構準備に時間がかかり、病院を出たときには一限が終わろうとしていた。
重い体を引きずる思いで学校に向かう。
着いたのは、四限の途中だった。二時間もかけて登校したのは、初めてだ。
教室に行く余裕なんて当然なく、俺はまっすぐ保健室に向かう。
「ちょっと、玲生くん!?ものすごく顔色悪いよ!?」
汐里さんに支えられながらベッドに寝たことで、ようやく落ち着いた。
汐里さんはベッドの隣にある丸椅子に座る。