制服のポケットに手を入れて歩いている。街を歩いているところを隠し撮りされたのだろう。

そんな姿すらかっこいいと思える。写真でも、私の心は癒された。

「彼は、あなたよりも心が美しい方です。侮辱しないでいただけますか」

立ち上がって彼に意見したが、すぐにしまったと思った。

私の発言は、お父様に影響する。

幼いころから教え込まれてきたことで。だから、今まで我慢してきた。

でも、笠木さんを侮辱され、一瞬すべてがどうでもよくなった。

「円香さんは、そんな庶民に惹かれているということですか!」

鈴原さんが無駄に大声を出したせいで、視線を集めてしまった。内容だって聞かれている。

「円香」

お父様が来ないわけない。

冷戦状態が続いていた私たちは、睨み合う。

「その写真を見せなさい」

逆らいたかった。笠木さんのことを、知られたくなかった。

だけど、やはりできなかった。

私は躊躇いながら写真を渡す。それを一瞥したお父様は、また私を睨む。

「どういうつもりだ、円香」

未だかつてない声の低さに、体が強ばる。

「……彼は、私の大切な友人です。友人を侮辱され、怒らずにいられませんでした」

こんな嘘で騙されてくれるだろうか。いや、無理だ。

友人だと信じてくれても、笠木さんと関わることをお父様が許してくださるはずがない。

「明日から前の学校に通いなさい。もうこの男とは関わるな」

お父様は笠木さんの写真をわざわざ裂き、離れていく。

笠木さんの写真はスタッフにより回収された。

予想通りの言葉だった。

もう、笠木さんに会えない。

「あの……円香さん」

スタッフの背中を見つめていたら、鈴原さんが恐る恐る私の名前を呼んだ。

「勝手に勘違いして、すみませんでした」

謝られても、許す気にはなれなかった。

だけど、後先考えずに行動した私も悪かった。少し考えれば、こうなることはわかったはずだ。

「……髪を染めたことも、バイトをしたことも事実です。ただ、それは彼に無理矢理やらされたことではありません。彼らの世界に触れ、私自身がやってみたいと思ったので、そうしたまでです」

鈴原さんは勘違いだと言うが、何も間違っていない。私は笠木さんが好きだ。

それでも、嘘でも好きではないと言いいたくなくて、私がしてきたことについてのみ言及した。

それからスタッフの姿が見えなくなると、鈴原さんと目を合わせる。

「少し風にあたってきます」

軽く頭を下げ、テラスに出た。

笠木さんには会えないのは嫌だったが、逆らうと、笠木さんの身に何が起こるかわからない。

なにより、自分が招いた結果だ。受け入れるしかない。

私は夜風にあたりながら、声を殺して泣く。

笠木さんが私を追いかけてくるとは思えないが、そうなっては厄介だ。私は、笠木さんをこの世界には巻き込みたくない。

きちんと、お別れを言わなければ。

笠木さんを傷付けるような嘘をついてでも。