そこに写っているのは、間違いなく笠木さんだ。

心臓がうるさくなる。

好きな人を見ることができたから、ではない。笠木さんの存在を知られていることで、笠木さんに迷惑をかけるような気がするからだ。

「どうして……」

これを言うだけで精一杯だった。

「妻になる者の身辺調査をしたまでです」

鈴原さんは自分のほうに写真を向けた。

妻になる者という言葉に、私だけがこの結婚が嫌だと思っているのだと思い知らされる。

「この男と関わるようになって、円香さんはおかしくなった。髪を染め、バイトをする。円香さんらしくない行動ばかりです」

鈴原さんは鋭い視線を私に向ける。

本当に、全て知られている。言い返したくても、言葉が出てこない。

というか、鈴原さんは、私が転校したときから私のことを調べていたのか。そんなに前から、私が許嫁であると知っていたのか。

どうしてお父様は教えてくれなかったのだろうと思ったが、私から会話をしないようにしていたから、言えるタイミングなんてなかったようなものか。

「この男のせいで、円香さんの価値が下がる」

鈴原さんは笠木さんの写真を落とし、踏みつけた。

「私の、価値……?」

私には、そう言ってもらえるほどの価値はない。

「そうです。あなたは気品溢れるお方です。庶民と馴れ合うことも、許されません」

鈴原さんが言う庶民とは、由依ちゃんと瑞希ちゃんのことだろう。

私は笠木さんや由依ちゃんたちのおかげで、初めて自分を好きになることができた。あの三人といたことで、私の価値というものが下がったようには思えない。

しかし二人のことも知っているのか。

この人への恐怖心が芽生えてくる。

「どうして庶民の学校になど転校したのですか」

どうしてこの人は、これほど人を見下しているのだろう。あんなに優しい由依ちゃんや瑞希ちゃんを見下せるほど、鈴原さんの人格が優れているとは、私は思えない。

徐々に興味がなかった鈴原さんの印象が、悪い方向に変わっていく。

由依ちゃんと瑞希ちゃんだけではない。彼よりも、笠木さんのほうが何倍も素敵だ。

笠木さんは絶対に人を見下すようなことはしない。人との繋がりを大切にする笠木さんなら、絶対に皆平等に接するはずだ。

そう思い、彼が踏みつけていた笠木さんの写真を拾う。

「円香さん……?」

私の行動が理解できないのか、鈴原さんはしゃがんだ私を軽蔑するように見てくる。

土埃を払い、改めて笠木さんの写真を見た。