私はこれほどつまらなそうな声が出せたのかと、自分で感心してしまう。

外の世界の楽しさを知ったからだろうか、今まで以上にこの場から逃げ出したい。そう思ったところで、勝手に帰ることはできないが。

「こんばんは、円香さん」

飲み物を受け取りに行こうとしたとき、名前を呼ばれた。振り向くと、私の許嫁だと言われている鈴原さんが二つのコップを持って立っている。

「鈴原さん……こんばんは」

意味もなく身構えてしまう。

「よかったら、どうぞ」
「……ありがとうございます」

差し出されたコップを受け取る。

「聞きましたか?僕たちのこと」

鈴原さんはそのまま私の隣に立ち、話し始める。

「はい……許嫁って……」
「僕と結婚するのは嫌ですか?」

鈴原さんは落ち込んでいるように見える。嫌だと思っていることが顔に出てしまったのだろうか。

私は慌てて顔を背ける。

少し前の私なら、仕方ないと受け入れただろう。

だが、状況は変わった。

私は今、笠木さんと一緒にいたい。生きていきたい。

その思いを抱えながら、ほかの方と結ばれることはできない。

「まあ、嫌でも断れないのが子供の立場ですよね」

鈴原さんは苦笑しながら言った。

私たちはいわゆる、政略結婚というやつだろう。両家の利益のために結婚させられる。

「鈴原さんは、私なんかでいいのですか?」

きっと、私が嫌だと言うことはできない。

それならば、鈴原さんからお断りしてもらうしかない。

「それは僕のセリフですよ。円香さんは美しく、人気だ」
「そんなこと……」

ない、と続けようとしたけれど、唇に指を当てられた。

「皆、円香さんに注目していますよ」

そう言われて見渡すと、本当に私たちのほうを見ている人が多い。

「……鈴原さんへの視線ではないでしょうか」

鈴原さんの容姿は整っていて、私が隣に立つのは相応しくない。

「円香さんは自分自身への評価が低いですね。美しい容姿と、小野寺という名は、誰もが欲するものです」

理解した。

誰も、私の中身を見ていない。

やはりこういうものか。笠木さんは自分を見てほしければ、相手を見ろと言っていた。

だけど、ここにいる人たちのことを見たい、知りたいと思わない場合、どうすればいいのだろう。

やはり、ここでは上辺の関係が一番なのだろうか。

ここにいればいるほど、笠木さんや瑞希ちゃん、由依ちゃんに会いたくなる。

「ところで円香さん」

鈴原さんに呼ばれ、顔を上げる。鈴原さんは一枚の写真を取り出した。

「この金髪の男とは、どういう関係ですか」

鈴原さんは笑っているが、怒っているのが声でわかる。