喫茶店でアルバイトをして、一週間が過ぎた。

今日は、久々に社交パーティーに参加させられる。私に拒否権などなかった。

用意されていた青いドレスを着て、ヘアメイクもしっかりされる。

会場に向かう車の中で、お父様と会話はしなかった。というより、あの日以来まともに話していなかった。

無言の時間に耐えられなくなってきたとき、車が停まった。

開いてほしくないドアが開けられる。手を差し出されると、降りないわけにはいかない。

むしろ、ここでそんな抵抗は無駄だ。

重い腰を上げる。

「行ってらっしゃいませ」

運転手に送り出される。

気持ちを切り替え、お父様の後ろを数歩離れて歩く。

こういう場が苦手でも、体に染み付いた癖というものは抜けないらしい。背筋を伸ばし、両手を前で重ね、静かに歩く。

「お久しぶりですね、小野寺さん」

会場に着くと、早速お父様に声をかけてくる人がいた。私は黙って立ち止まる。

「これは田代さん。お久しぶりです」

まだ私にはわからない会話が始まる。

「それにしても、お嬢さんは相変わらずお美しい」

そう思ったのに、田代さんは私のほうを見ていた。

「ありがとう、ございます」

私の言葉一つがお父様の仕事に影響すると教え込まれてきたため、今でも緊張する。

「男たちが放っておかないのでは?」
「いえいえ。円香にはもういい人がいますから」

お父様は笑って答えた。

いい人が、いる?私に?

笠木さんのことは知られていないはず。だとすれば、考えられることは一つしかない。

お父様は、許嫁を決めているのだろう。

「そうでしたか。おめでとうございます」

なにがめでたいのだろう。勝手に決められて、それも、好きではない相手で、嬉しいことなど一つもない。

お前は一生逃げられないと言われたようなものだ。

「そのお相手というのは?」
「鈴原財閥のご子息ですよ」

会話の中で、どんどん知らないことがわかっていく。

鈴原財閥のご子息、鈴原洸希(こうき)さんは私の五つ年上の方だ。

あまりお話したことがなく、これといった印象がない。語弊を招く言い方になるが、話していたとしても、興味がなかったため、覚えていない。

「円香。ここで待っていなさい」

お父様は振り向いて言った。

それは、私に聞かれては困る会話をする合図だった。

「……はい、お父様」

久しぶりに聞いた、自分の感情のない声。