その表情はどこか寂しそうで、声をかけなければ消えてしまいそうに思えた。
「……飲み物、いかがですか」
だが、バイトの俺はこう言うことしかできなかった。
お嬢様は急に声をかけられ、驚いている。と思ったら、すぐに笑顔を作った。
「大丈夫です。ありがとう」
俺にも愛想笑いを向けられ、それは拒絶のように感じた。
お嬢様のことが心配でも、俺にはどうすることもできない。
だから、それ以降俺がお嬢様に声をかけることはなかった。
バイトが終わると給料を受け取り、帰路についた。
だが、バイトが終わってどれだけ時間が経っても、お嬢様の苦しそうな笑顔が頭から離れなかった。
◆
そんな彼女が今、目の前で楽しそうに笑っている。それも、作り笑顔なんかじゃなく、心の底から。
俺の中にあった悲しそうな彼女の笑顔が、少しずつ消えていく。
「笠木さん!私にも、できました!」
注文を受け、それを店長に伝えただけなのに、子供のように喜んでいる。
どうしてそんなに無邪気に笑うんだ。
あのときとは違う意味で、頭から離れなくなる。
「笠木さん?」
お嬢様が俺の名前を呼ぶ。たったそれだけのことなのに、嬉しいと思う自分がいる。
もう、誤魔化せない。
俺は、お嬢様に惚れたんだ。きっと、初めて会ったときから。
「笠木さん、大丈夫ですか?」
俺の顔を覗き込んで上目遣いをするお嬢様を、抱きしめたい。その可愛い声で、玲生と呼んでほしい。
好きと自覚した途端、今まで顔を出さなかった欲望が湧き出てくる。
ああ、最悪だ。
俺はお嬢様の頭に手を置き、顔を見られないよう少し抑える。
「あの……?」
お嬢様は動揺した声を出す。
ダメだ、お嬢様の行動がどれも可愛く思えてくる。
「……大丈夫だから、心配するな」
お嬢様から手を離す。
そのとき、注文の品を運び終えた里帆さんが戻ってきた。
「里帆さん、お嬢様のことお願いします。俺、洗い物に入るんで」
「え、うん」
その里帆さんを呼び止めた。
さっきまで厨房に入っていて、まだ洗い物が溜まっているわけないから、里帆さんは不思議そうにしながらも、交代してくれた。
自覚したばかりの今、気持ちを隠しきる自信がなかった。
「働かない奴に給料は出さないからな」
厨房に入って大きくため息をついたら、店長が冷たく言ってきた。
「……わかってる」
そうは言ったけど、その日はあまり身が入らなかった。
「……飲み物、いかがですか」
だが、バイトの俺はこう言うことしかできなかった。
お嬢様は急に声をかけられ、驚いている。と思ったら、すぐに笑顔を作った。
「大丈夫です。ありがとう」
俺にも愛想笑いを向けられ、それは拒絶のように感じた。
お嬢様のことが心配でも、俺にはどうすることもできない。
だから、それ以降俺がお嬢様に声をかけることはなかった。
バイトが終わると給料を受け取り、帰路についた。
だが、バイトが終わってどれだけ時間が経っても、お嬢様の苦しそうな笑顔が頭から離れなかった。
◆
そんな彼女が今、目の前で楽しそうに笑っている。それも、作り笑顔なんかじゃなく、心の底から。
俺の中にあった悲しそうな彼女の笑顔が、少しずつ消えていく。
「笠木さん!私にも、できました!」
注文を受け、それを店長に伝えただけなのに、子供のように喜んでいる。
どうしてそんなに無邪気に笑うんだ。
あのときとは違う意味で、頭から離れなくなる。
「笠木さん?」
お嬢様が俺の名前を呼ぶ。たったそれだけのことなのに、嬉しいと思う自分がいる。
もう、誤魔化せない。
俺は、お嬢様に惚れたんだ。きっと、初めて会ったときから。
「笠木さん、大丈夫ですか?」
俺の顔を覗き込んで上目遣いをするお嬢様を、抱きしめたい。その可愛い声で、玲生と呼んでほしい。
好きと自覚した途端、今まで顔を出さなかった欲望が湧き出てくる。
ああ、最悪だ。
俺はお嬢様の頭に手を置き、顔を見られないよう少し抑える。
「あの……?」
お嬢様は動揺した声を出す。
ダメだ、お嬢様の行動がどれも可愛く思えてくる。
「……大丈夫だから、心配するな」
お嬢様から手を離す。
そのとき、注文の品を運び終えた里帆さんが戻ってきた。
「里帆さん、お嬢様のことお願いします。俺、洗い物に入るんで」
「え、うん」
その里帆さんを呼び止めた。
さっきまで厨房に入っていて、まだ洗い物が溜まっているわけないから、里帆さんは不思議そうにしながらも、交代してくれた。
自覚したばかりの今、気持ちを隠しきる自信がなかった。
「働かない奴に給料は出さないからな」
厨房に入って大きくため息をついたら、店長が冷たく言ってきた。
「……わかってる」
そうは言ったけど、その日はあまり身が入らなかった。