「私はシュークリームとサイダー」
「チョコレートケーキと、紅茶をお願いします」

由依ちゃん、私が注文をすると、笠木さんはメモをとる。

「かしこまりました」

笠木さん注文票をエプロンのポケットに入れ、メニュー表を持って去った。

私はお手洗いに立つふりをし、笠木さんを追いかける。

ちょうど注文を伝えているところだったため、深呼吸をして終わるのを待つ。

「笠木さん」

今は手が空いているのか、笠木さんは私の話を聞こうとしてくれている。

「私も、アルバイトをしてみたいです」

笠木さんは面倒そうに顔を顰めた。

「お嬢様、聞いてなかったのか?アルバイトは校則違反なんだ」

悪いことをしている人に言われても、説得力がない。

「一度髪を染めたのです。もう、怖いものなどありません」
「だとしても、また怒られるぞ」

お父様が怒ると、何をするかわからない。それは昨日わかったことだ。

恐怖で手が震える。

「お嬢様?」

笠木さんは心配そうに私の顔を覗く。

「……大丈夫です。わがままばかり言ってすみません。お仕事に戻られてください」

自分でもわかるほど、上手く笑えなかった。
深く聞かれる前に席に戻ろうと、踵を返す。

「待った」

だけど、笠木さんに腕を掴まれてしまった。

「……まさか、やる気があるのならやってみろとでも言うつもりですか?」

図星だったのか、笠木さんは私から目をそらす。

「うるさい。お嬢様を悪い方に行かせちゃいけない。だけど、やりたいと思っていることを我慢させたくない……って、いろいろ考えてるんだよ」

笠木さんに言葉をかけようとしたら、私たちが注文した品が用意された。私は逃げるように席に戻る。

すぐあとに笠木さんがそれらを運んできてくれた。

「円香ちゃん、笠木くんとなに話してたの?」

由依ちゃんはサイダーを一口飲みながら聞いてきた。

笠木さんが運んだチョコレートケーキにフォークを入れる。

「アルバイトをしてみたいと、お伝えしました」

思ったより小さくなったケーキを口に入れようとしたとき、瑞希ちゃんのため息が聞こえた。

「えん……笠木を好きになってから、おかしくなってるよ」

由依ちゃんもそう思っているのか、私と目を合わせてくれない。

「校則は守るもの。笠木の真似ばかりするのはよくない」

校則が守るべきものであることは知っている。