学校でと言われると、いない。

私と由依ちゃんは首を横に振る。

「てことは、私たちが言わなかったら、笠木は辞めなくてもいいという……」

耳を疑った。

「意外」

由依ちゃんに先に言われてしまい、私はただ頷く。

「瑞希なら笠木くんのことなんか考えずに、先生に言うのかと思った」

由依ちゃんが言うと、瑞希ちゃんは目を伏せた。

「……だって笠木、病気かもしれないんでしょ?家系厳しいのかもとか思ったら……言えないじゃん」

瑞希ちゃんなりの気遣いだったらしい。由依ちゃんも俯いている。

だけど、それは誤解だ。

「あの……笠木さん、病気ではないそうですよ」

二人は目を丸くした。

「それ、本当?」
「はい。本人に確認しましたので、間違いありません」

机の上に置かれている瑞希ちゃんの拳が強く握られる。

「あの野郎……!」
「ほかの客の迷惑だ。騒ぐなら帰れ」

タイミング瑞希ちゃんのよく後ろを通った笠木さんが小声で言った。瑞希ちゃんは立ち上がって笠木さんと睨み合う。

「邪魔」

だけど、瑞希ちゃんは一蹴されてしまった。

瑞希ちゃんは座り直し、不機嫌そうに働く笠木さんの背中を睨む。

「心配して損した」

私は笠木さんが病気ではないと知って嬉しかったが、瑞希ちゃんは違ったらしい。

「でも、私たちが一方的に病気かどうか聞いて、結局答えてもらわなかったし……私たちがそれを信じただけ。だから、八つ当たりはよくない」

由依ちゃんに諭され、瑞希ちゃんはゆっくり息を吐き出した。

「大量に注文しよう。あいつを困らせてやる」

やはり気が済まないのか、瑞希ちゃんは笠木さんを呼び、メニュー表を開いた。

そして聞き取れないスピードで注文をした。

「注文を繰り返します。りんごジュースにオレンジジュース。ショートケーキ、チョコケーキ、フルーツタルト。あとはたまごサンドですね」

瑞希ちゃんの表情を見ていたら、笠木さんが正しく聞き取ったということがわかる。

「……全部一人で食う気か?」

笠木さんは小声で言った。瑞希ちゃんは顔を背ける。

「私の自由でしょ」
「じゃあ、金は?」

笠木さんは注文票を見ながら、冷たく言う。

瑞希ちゃんは目を泳がせる。

「……りんごとフルーツタルトだけでいい」

そして瑞希ちゃんは注文を言い直した。

笠木さんは瑞希ちゃんの注文をメモすると、私たちのほうを見た。