「私、この服買います」

普段選ばないような服だが、二人が私に服を選んでくれたことが嬉しくて、迷わずに決めた。

「え、でもその服……」

由依ちゃんは戸惑っている。

この服が、一万円近くするからだろう。二人は値段を見ずに、私に似合う服を選んでいたらしい。

しかしどれだけ高くても、欲しいと思ったのだから仕方ない。

「今日のために多めにお小遣いをもらったので、大丈夫です」

由依ちゃんはそれでも心配してくれていたけど、瑞希ちゃんはなぜか笑っている。

「えんの親、厳しいのか甘いのかわかんないね」

それに関しては笑って誤魔化し、自分の服に着替える。試着室を出ると、そのままレジに行く。

私が会計をしている間、二人はアクセサリーを見ていた。

「このネックレス、超可愛い」
「本当だ。可愛いね」

瑞希ちゃんたちの背後から、瑞希ちゃんが選んでいるネックレスを見る。銀色のチェーンで、小さなチャームが付いている。

「プレゼントしましょうか?」

私が声をかけると、瑞希ちゃんは振り向いて真剣な表情で私の目を見てきた。

「……あのね、えん。いくら多めにもらったとしても、お金の使い方は考えないとダメ」
「服を選んでいただいたお礼にプレゼントしたいと思ったのですが……」

そういったことに使うのが間違っているとは思えない。

「私たち、円香ちゃんに似合う服を選んだだけで、プレゼントはしていないでしょ?だから、気持ちだけで十分だよ」

由依ちゃんはそう言うと、私の背中を押して店を出た。

誰かに何かをプレゼントしたいと思ったのは初めてで、後ろ髪を引かれる思いだった。

それから私たちは由依ちゃんが行きたいと言っていた喫茶店に到着した。

一番にドアを開けた瑞希ちゃんが立ち止まったせいで、由依ちゃんも私も中に入れない。

「ちょっと瑞希、早く中に」
「なんであんたがここにいる?」

由依ちゃんの言葉を遮って発せられたそれは、由依ちゃんに向かって言ったものではなかった。

瑞希ちゃんの言うあんたが誰なのか気になり、なんとか店内が見れないかと体を動かす。

「笠木」

その名前で体の動きは止まる。

今は笠木さんに会うのは、嬉しいよりも申しわけない思いのほうが強い。気付かれる前に帰りたい。

「あれ、お嬢様。もう髪切ったのか」

私は笠木さんの姿を見ることができなかったのに、一瞬で見つかってしまった。

諦めて背筋を伸ばす。だけど、顔は上げられない。

「……お父様に、怒られました」