メニュー表には写真も載っていて、それがどういうものなのかわかりやすい。

「私は豚骨」
「あ、醤油ラーメン美味しそう」

瑞希ちゃんと由依ちゃんは即決だった。

「私は……」

早く決めなければと思い、瑞希ちゃんと同じものを選ぼうとした。だけど、瑞希ちゃんの鋭い視線に気付き、言えなくなった。

「円香ちゃん、塩にするといいよ。そうしたら食べあいっこできるし」

メニュー表を見直して適当に選ぼうとしたら、目の前に座っている由依ちゃんがそう言ってくれた。

その発想はなかった。一人での食事が多く、誰かと食べる機会は基本的にパーティーのときのみ。

わけあって食べたことがない。

「……いいのですか?」
「円香ちゃんの好きな味探しってことで。いいよね、瑞希」

由依ちゃんが隣に座る瑞希ちゃんに確認すると、瑞希ちゃんはどこか不満そうに頷いた。

注文をして料理が届くまでの間、ひとまず水を喉に通す。

「そういえば、残念だったな」

由依ちゃんはビニル袋に入っていたおしぼりを取りだし、手を拭いている。

「髪を染めた円香ちゃん、見たかった。そんなにお家厳しいの?」

あまり細かいことは言えないけど、お父様が厳しいことを今さら黙っても仕方ない。

「休みの間染めるくらいは、許してもらえると思ったのですが……」

俯くと、耳にかけていた髪が落ちてくる。短くなってしまった髪を見て、あのときの気持ちが蘇ってくる。

「これだけ礼儀正しい、いい子に育てたのに、髪染めたなんてなったら、普通嫌がるって」

瑞希ちゃんは水を飲み干し、おかわりをもらっている。

「それに、大学生ならまだしも、高校生だから。親だけじゃなく、同級生とかも嫌がる」

そう言われて、初めて冷静になった。

笠木さんへの噂や態度を見ていればわかったことなのに、私は本当に目の前のことしか見えていなかった。

だからといって、お父様の行為を許すわけではないが。

「そうだとしても……いくら娘でも、女の子だもん。いきなり髪を切られるのは嫌だよ」

私の思いを、由依ちゃんが代弁してくれた。

そのとき、注文した料理が届いた。

「結果、笠木が悪い」

瑞希ちゃんは割り箸を割りながら言った。

なぜそうなった、とは言えなかった。私が髪を染めることに興味を持ったのは笠木さんがきっかけで、染めてみようと言ってくれたのは笠木さんだ。

笠木さんを悪者にしてしまうのは嫌だったけど、フォローのしようがなかった。

「……円香ちゃん、やってあげようか?」