東雲さんの言葉に、坂野さんは頷いた。

全く緊張していないと言えば嘘になるが、それが理由で話せないでいるわけではない。

訂正したいところだが、そのままでもいいような気もする。

「小野寺さん、わからないことがあったらなんでも聞いてね」

坂野さんは変わらず優しく笑いかけてくれる。

わからないことはたくさんあるが、何よりもあの金色の髪の彼のことが気になって仕方ない。

「では……一つだけ、聞いてもよろしいでしょうか……?」

坂野さんと東雲さんは固まってしまった。どうしてかわからず、私は二人の表情を交互に見る。

すると、東雲さんが笑いだした。

クールなイメージだったため、思わず東雲さんの笑顔に驚いてしまう。

「自己紹介のお辞儀の時点で礼儀正しい子だなとは思ったけど、まさかここまでとは」
「小野寺さん、私たち同い年なんだから、敬語は使わなくていいんだよ?」

そんなことを言われても、常にそうしていなければならなかったせいで、どうすればいいのかわからない。

「ありゃ?困らせちゃった」

坂野さんこそ困ったような表情をし、東雲さんはさらに声を出して笑う。

「少しずつ慣れていけばいいさ。それで?何が聞きたいの?」

笑いながら目に浮かんだ涙を指で拭いながら聞かれた。

金髪のあの人の名前はたしか、笠木だったはず。

「金色の髪をした、笠木さんという方についてなのですが」

東雲さんの動き、表情が固まった。坂野さんも戸惑っているように見える。

言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。

「あー……なんで?」
「今朝偶然見かけ、どのようなお方なのか、気になりまして」

二人は互いに顔を見合わせた。

「どんな人って言われても、全然関わったことないし……」
「いい噂も聞かないよね」

二人が浮かない顔をしていた理由がなんとなくわかった。

「それで構いません。教えてください」

初対面なはずなのに、私をいいところのお嬢様と言っていたのが、気になって仕方なかった。

どうして彼は、私がお嬢様だと知っていたのだろ。もしかして、彼も私のように身分を隠しているのかもしれない。

「……まず、授業は全部寝る。夜は高校生がいたらいけない場所にいる」
「見た目もなんだか近寄り難いよね」

たしかにあの見た目では、誰も近寄りたくないと思うだろう。

東雲さんの噂は、信じたくない反面そのような気がしていた。

笠木さんはいわゆる、不良。

初めて会ったときに登っていた木も、本当は登ってはいけないものなのではないだろうか。

彼は、ルールを守らない人、なのか。

「私たちが知ってるのはこれくらいかな」
「ありがとうございます」

笠木さんがどのような人なのかだけしかわからず、私のように身分を隠しているかまではわからなかった。

だからといって、それを顔に出すわけにはいかない。二人は最初によく知らないと言い、それでも構わないと言ったのは私だ。

文句を言っていいわけがない。

「でも……関わることはオススメしないよ?」

あの先生と同じことを言われ、思わず顔を顰めてしまった。

坂野さんはそんなつもりで言ったわけではないと、わかっているのに。