誰がいるのか。どうして叩いたのか。

それがなんとなくわかり、返事もしたくなかったし、ドアを開けたくもなかった。

だけど、容赦なくドアは開けられた。

予想通り、そこに立っていたのはお父様だった。

「円香……どういうつもりだ」

まだ六時前だというのに家にいるのは、柳からの連絡を見て急いで帰ってきたということだろう。

何を言っても伝わらない、怒られると思い、黙り込む。

「それはあの低レベルな学校に通ったせいか?あの学校の中に、お前をそそのかした奴がいるのか?」

久々のお父様の圧迫的な態度は、恐怖で支配されるようなもので、言葉が出てこない。

否定したいのに。笠木さんが思っているようなことは何もないと、言わなければならないのに。

「もうあの学校には通わせない。髪も今すぐ黒に直してきなさい」

一番恐れていた言葉を、お父様はあっさりと言った。私は泣きそうになりながら、首を横に振る。

「私、は……あの学校に、通いたいです……」

絞り出した声は、お父様に届きそうになかった。

どうして、こういうときに勇気が出ないのだろう。

お父様は大きくため息をついた。

たったそれだけのことなのに、体が強ばる。

「やはりわがままを聞くのではなかった。悪影響になるものしかない場に、入れるべきではなかった」
「……違います!」

お父様に反抗してしまった。

学校に通ったことで悪影響になんてなくて、お父様の言葉を肯定してはいけないと思うと、思わず声が出た。

お父様は私を睨む。

しかしここで怯んではいけない。言ってしまったのだから、このまま最後まで言うべきだ。

ほんの少しでいい。
勇気を、出せ。

「……私はあの学校に通って、初めて友達が出来ました。誰かに会うことを楽しみに思う気持ちを知りました」

そして、誰かを好きになるという幸せを知った。

「ではなぜ、お前は髪を染めた。その友人に無理矢理やらされたのか?」

違う。髪を染めたいと、私自身が思ったことだ。強制などされていない。

しかしお父様は私の友達がそういう人だと思ったということか。

「いくらお父様でも、私の友達を侮辱するような発言は許しません」

お父様は私を見下ろしてくる。

それに負けじと睨み返していたら、お父様は私のペン立てにあるハサミを手にした。
そのまま私のほうを向く。

出てきた勇気はどこかに行ってしまった。

「お、お父様……?」
「旦那様、それは……!」

私の怯えた声も、柳の慌てた声も届かなくて、お父様は乱暴に私の髪を掴むと、赤色の髪を切り落とした。